INTERVIEW

VMP23ファイナリスト
株式会社TANSAQ
代表取締役 西脇森衛 氏・取締役 小谷佳子 氏

MIT-VFJ登録メンターによる徹底したメンタリング・アバイスによって、事業計画の見直しやブラッシュアップを行なうベンチャーメンタリングプログラムVMP。
2023年12月のVMP23でファイナリスト認定された皆さんへのインタビュー、今回は『データ駆動型尿酸値改善プラットフォームGOUTOPIA事業』を発表された、株式会社TANSAQ 代表取締役の西脇 森衛(にしわき・もりえ)さんと、取締役の小谷佳子(こだに・よしこ)さんのお2人に登場いただきます。

貴社の事業概略と、お二人の所掌を教えてください。

西脇

健康と疾患の中間にある未病という領域に対して、その方に合った方法で改善させていき、健康な状態に戻すサポートをすることが事業です。
疾患を発症してしまうとなかなか健康状態に戻すのが難しいと一般的に言われており、それを私たちは科学的な検証に基づいて、未病の状態のうちに対応することで、健康な状態に戻すことのお手伝いをできるのではないかと考えています。

世の中で未病に関しては、ふわっとしたイメージなので言葉だけが先行しているように思います。
私たち対象としている高尿酸血症 (痛風)領域は、尿酸値で未病を定義することができます。
さらに、痛風や高尿酸血症は、遺伝的な影響が大きいということが最近詳細に明らかになってきています。
きっかけとしては、私たちの事業経験を活かし、遺伝的な体質を調べることによりその方のリスクを把握し、個人に最適化された精緻なサポートができるのではないかと考えたことです。
ただし、実際やろうとしてみるとそのようなシンプルなものではないことが分かってきました。
尿酸値の変動は複数の遺伝的要因に生活習慣が加わることで、症状として現れてきます。
この、遺伝子型(ジェノタイプ)と表現型(フェノタイプ)の情報を統合して最適な尿酸値を改善する新しいサービスを提供したいと考えています。

私は痛風・高尿酸血症の当事者なので、いろいろな患者として健診や病院での診療についても長年不満を感じてきました。
今考えるとそれが患者課題でした。
また、この事業を立ち上げようとした時に、多くの方にインタビューを行っていますが、当事者である私の想像を超えて様々な課題がこの領域にはあることが分かってきました。
例えば、尿酸値高め(6~7.9mg/dL)の方が1,700万人以上、高尿酸血症でも薬による対象にならない方(無症候高尿酸血症で尿酸値7~8.9mg/dL、合併症なし)が500万人もいます。
また、尿酸値をコントロールできず、痛風発作の再発を繰り返している方も潜在的に多くいらっしゃいます。
このような方々は病院に行きませんから「社会から放置されている状態」と言えます。
そういった方々を支援する社会的課題を解決する事業という観点からも意義が大きいと考えています。

私達は臨床検査センターとバイオベンチャーという背景を持っていて、小谷と私は二人とも研究開発のバックグラウンドを持っています。
私自身が最も経験値が高いのは「がん」の領域になります。
がん領域はとても研究開発費が大きいですし、患者のみならず患者でない一般の方にとっても不安が大きく、ビジネスとしては普及させやすい要素があります。
しかし、その一方で、がんの早期予測ビジネスは数多く存在しますが、私たち専門家からすると、その営業方法はやり過ぎではないかと思うこともあり、実際にサービスを受けた方にどれくらいのメリットがあるのかと思うこともあります。
もちろん素晴らしい技術もありますので、そのような技術を早くエビデンスを確立して臨床的に意義のある検査サービスにすることを否定するものではありません。

私達は調査検討と議論を重ねた結果、がんやその他の重大な疾患を発症するリスク因子をみつけて、それを予防する技術・サービスをビジネスにしようと考えました。
私達は臨床検査センターにいましたので、新しい検査サービスの導入・立上げと、検査の品質管理の経験を多く積んできておりますし、バイオベンチャーで必要な新規の技術開発・事業化に必要なスピード感や社会実装の大変さは十分に理解しています。

経験してきた背景と事業化に対する考え方はこのように似通っておりますが、性格は全く異なっておりましてたびたび激しい議論を展開しています(笑)。
所掌としては、私が幅広い事業戦略特にBtoB事業の可能性を検討し大きな絵を描き、小谷はD2Cマーケティングやデータ収集など実際の業務オペレーションの構築を分担しています。

痛風患者は多くいらっしゃるし、かなりお辛いと伺っていますが、その割に取り上げられることが少ないというか解決されないのは、痛風になっても、命に別状がないからですか?

西脇

皆さんは、尿酸値というと痛風とお考えになりますよね。
「痛風は痛いだけで死なないでしょ?」と思っている方が多いと思います。
実際に痛風そのもので命を落とされる方は今ではいなくなっています。
ただし、尿酸値が高い状態が続くということは生活習慣病の合併と重症化につながっており、「すぐには死なない」のですが死亡リスクを上げることが明らかになっています。

このことは、一般の方はもちろん、内科クリニックの医師にもリスクとしてそれほど認識されていません。
これは、尿酸値を上げる要因が複雑であることと、実際に高齢になってさまざま合併症を併発して薬を複数服薬すると、結果的に尿酸値が下がっていたりすることもあり、そのような方では尿酸値に注目してもしょうがないということもあります。
しかし、尿酸値だけが高い段階で、早期に改善・コントロールすることで、結果的にメタボ発症や重症化を抑制できる可能性があります。
また、尿酸値を薬で積極的に抑制することで、心臓や脳、腎臓の機能の低下や疾患発症を抑制できる可能性も示唆されています。

他の生活習慣病にも言えることですが、「普通ひとはすぐに死なないことの対策のために動かない」現状をどうすれば変えられるか、行動変容を誘導できるか、今まさにさまざまな事業プレイヤーの方々と議論をしており一番苦労しているところです。

VMP23に応募された経緯は?

西脇

馬場さん(MIT-VFJ理事)にご縁があり、半年以上プライベートでメンタリングをお願いしておりました。
なぜこの方はここまで私たちの面倒をみているのかと思い、最初はちょっと怖いなとも思いました(笑)。
しかし、純粋にこの方は支援したいという心でやっているのだなというのがわかりまして、安心して相談しておりました。
じっくり話を聞いていただき、時折アツく明快に語っていただき背中を押していただき私たちは大変感謝しております。
それで私たちはブラッシュアップを続け、そろそろ次のフェーズに上がっても良いのではということで、今回のVMP23に応募させていだたきました。

何を期待して応募されましたか?改善したかったのはどんな点でしょうか?

西脇

調査してみると先に述べたように高尿酸血症にはいろいろな方々がおり複雑な状況でした。
痛風発作を発症して薬を飲んでいるけれど治療の目標に到達できない方、治療そのものをやめてしまう方、薬の適用ができない方です。
また、そもそも、尿酸値が高め、あるいは高尿酸血症かもしれないのに調べていない方という人が1,000万人以上います。
どのような状態の方にどのようなサービスどうやって届ければ良いかという判断ができていないままで今回のメンタリングプログラムに入りました。

同じようなことをやるにしても、医療領域の場合、法的規制があるのでそこにきちんと対応したビジネスにする必要があり、お金も時間もかかります。
一方でライトなヘルスケアサービスの場合、簡単である反面、どうやって集客するのかといった問題や、ユーザーが利用料をどの程度支払うかといった数々の課題も残されております。
長年事業をやっているプロフェッショナルな方々に、こういったアドバイスをいだたけるのではないかと思いました。

小谷

私たちはバックグラウンドが似ているので偏った考え方になってしまっていると思っています。
MIT-VFJのメンターは、いろいろな業種の方がいらっしゃるので、考え方の幅が広がり、いろいろな知識を得られるのではないかと期待しました。

MIT-VFJのメンタリングを受けて、最初に感じたことを教えてください。

西脇

なんでこんなに経験値の高い方々たちがボランティアでこんなことをしているんだろうと思い、衝撃を受けました。
私たちのフェーズでディスカッションを進めるということは、メンターの方たちにとっては大変なことだったのだろうなということは容易に想像がつきます。

小谷

メンターのみなさんは、ご自身のお仕事を持ちながらの活動で、いつも夜にメンタリングをしてくださっていました。
なんてすばらしいプログラムなんだろうと思いました。
合宿については、大学生ぶり以来で、お昼から夜中までみなさんと協議させていただいてすごく刺激的でした。

メンタリングの頻度と方法は?

西脇

1ヶ月に1回くらい、2時間程度で、全てオンラインでした。

メンタリングを受けている間、困ったなと思ったことは?

西脇

高尿酸血症は、中身が複雑なので、メンターの方達にそれをまず理解していただくことの難しさがありました。
また、医療とヘルスケアそれぞれの範囲でできることと、できないことがあるということを理解していだたくことも難しいと感じました。
そのおかげで、一般の方にも、こういう部分をわかりやすく説明しなくていけないということがわかったので、その訓練に繋がりました。

3ヶ月間メンタリングを受けた一番の成果はなんでしょうか?

西脇

メンターの橋本昌子さんに薬剤師業界のことを教えていただいたのは大きかったです。
橋本さんは、ご自身で薬局(調剤)を経営されています。
業界の中でもDX化が進んでいるそうで、既に顧客とのエンゲージメントを強化するツールを活用されています。
私たちのサービスが活用される余地があるのではないかということで事業機会を検討しています。

あとは、他チームのメンターですが入野さんのアドバイスがグループ内で公開されていましたので大変刺激になりました。
まさにメンタリング期間に出現したchatGPTのツールを共有いただき、ピッチ資料や事業計画書の作成だけでなく、多言語版のプレゼン動画を作成方法まで共有していただきものすごく衝撃的でした。
なかなか使いこなすところまでは言っていませんが(笑)。

小谷

西脇さんが、プレゼンがすごく上達したのはないかと思っております。
これまでも補助金や審査などの関係でプレゼン、ピッチの場がありましたが、私たちの伝えたいことを全て盛り込んでしまい効果的なプレゼンにはなっていなかったのです。
皆さんに指導していただいて、削るところは削って伝えたいところだけを残していくかというところに絞れたピッチになってきたと思います。
また、MIT-VFJでいろいろな方と知り合うことができたので感謝しています。

最終発表会でのコメンテーターによる質問やコメントも併せ、VMP23参加は、今後の貴社の発展に、どのような変化をもたらすと思われますか?あるいはどのように変化させたいですか?

西脇

様々な事業領域の方々に多面的なコメントをいただけたことは貴重な機会だったと思います。
いろいろなビジネスの作り方があると思い、そういった企画ができる企業と連携して、ムーブメントを起こしていきたいと思っています。

例えば、ゲノム、遺伝子に関する部分を進めるにはどうしたら良いかというアドバイスをいただきました。
痛風の課題を一般の方にどうやって認知させるかについてのアドバイスもいただきました。
メディアの方もいらっしゃって、「がんはテーマとしては重いのでメディアとしてもコンテンツを作るのが大変だが、痛風だと直接的に命には関わらないので扱いやすいし、むしろ笑いに変えられる」とおっしゃっていました。
実際、痛風・尿酸値高い方へのインタビューでも「お酒を飲んでだらしないからそうなったんでしょ?」と思われたり、お父さんが子供さんに笑われたりといこともあります。
必ずしも生活習慣が原因でもないためそれらは偏見でもあり、ちょっと悲しいんですけど、笑っちゃうという部分もあります。

単に、お酒や暴飲暴食をやめましょうという生活指導的なアドバイスでは、誰も変わらないです。
「~をやめましょう」から「こんな面白いこともあるんですよ」といったエンタメ的な視点が必要と思います。
また、私達単独で解決できるとも思っていません。
「社会的な課題としてみんなで解決していきましょう」というように、一緒に取り組んでいただけるパートナーを見つけたいと考えています。
実際に、VMP23のピッチを聞いていただいた企業の方から、コンサルテーションの依頼があったり様々な方からレスポンスをいただいたりしています。
これからも尿酸値をマネジメントするための仲間探しをしていきます。
ぜひこのインタビューをご覧になった方々で、痛風が不安な方、活動にご興味を持たれた方はご連絡をお願いします(笑)。

小谷

このプログラムに参加しなければ出会えなかった人達とたくさん出会えました。
また、メンターの橋本さんからは、その後もいろいろな方をご紹介いただいています。
私達が考えつかなかったビジネスの方向性や考え方というのは、弊社の今後に大きな影響をいただけたと思います。
それをもっと活かせるように、更に情報収集をして、今一度皆さんにもご意見をいただきたいと思っています。

司会

今までのファイナリストが参加しているファナリストクラブというものがありますので、そこでも交流をしていただければと思います。

小谷

はい、ぜひそうしたいです。楽しみにしています。

貴社が築いていくのはどんな未来ですか?
そのために解決しなければならない課題は?

西脇

固い話になるのですが、今の医療の在り方は、このままではサスティナブルではないというのは明白です。
我が国では国民皆保険制度というすばらしいシステムがある一方で、皆さんがそこに依存しすぎており、疾患発症を自分で予防するインセンティブが「小さい」というか「ない」のです。
そうなると病気がひどくなってから通院し、対処療法の医療費が継続的に投入し続けられている、そういう仕組みができあがっている、それを変えていくのが非常に難しい。
それが課題そのものだと思っています。

ご自身の遺伝的体質では、今の生活習慣を続けいくと将来こうなるんだということを本人に知っていただき、行動変容をどうやって誘導・維持するのかを、私たち単独ではなくコミュニティや社会全体で議論し解決する必要があると思います。
高尿酸血症は「全ての生活習慣病の始まり」とも言えるので、とても良い行動指標だと思いますので、もっと皆さんに認知していただきたいと思っています。

最も高いハードルがあります。
メタボリックシンドロームの発見・予防を目的とした特定健診項目 というものがあるのですが、そこに尿酸値が必須検査項目に入っていないということです。
そういう理由で健康診断の3割で尿酸値が測られていません。
ある国立大学の教官が行っている健診の項目に尿酸値が入っていないという衝撃的な事実もあります。
従って、自分自身の尿酸値を知らない方がたくさんいう状況の中でなんとなく尿酸値が高い、低いと議論されていますし、そもそも年に1回の尿酸値の測定で自分の状態を把握しているとは言えません。

小谷

これからの高齢化社会で重要となってくるのが、平均寿命と健康寿命のギャップだと思っています。
現在ギャップが10歳くらいあるのです。
そこが長いと医療費が膨らんでいきますし、長い間苦しんで生きていくというのは人として良いことではないので、そこを短くしていくことは重要だと思います。
なので、私達は、未病の段階からちゃんと状態を把握して、健康な状態に戻しましょうという活動を広めていきたいと思っています。
ただ、日本においては、国民皆保険という制度があるのでどうしても病気ではない段階でお金を払うというのが難しくて、そこが一番のハードルになっていると思います。
ただ、そこを変えていかないと日本の未来はないと思っていますので、世の中から変えていくような、西脇さんが言っているムーブメントのようなものを起こしていければ良いと思っています。

ボランティアをベースとしたMIT-VFJの活動に対し、期待されることがあれば教えてください。

西脇

これ以上のものがあるかというほどすばらしい活動だと思っています。
ただ、先日、秋山さんの講演(MIT-VFJ 10月月例セミナー)があったのですが、メンタリングが始まる段階でお聞きできれば良かったと思いました。
資金調達についてのすばらしいお話でした。
個々のメンターが経験したことに関しても、私達が知らないことに関してお聞きする機会をいただけたらありがたいと思っています。

小谷

過去のファイナリストの方々とも交流していきたいので、イベントの開催などを期待しています。

今後、VMPに応募を考えている方たちへ、ひと言メッセージをお願いします。

西脇

いろいろなメンターの方がいらっしゃって、非常に熱い想いでメンタリングしていただいたので、これはチャンスとして絶対に受けるべきだと思っています。

小谷

このプログラムは他のアクセラレータープログラムとは違って、いろいろとお話しできるものだと思っています。
ピッチイベントやビジネスコンテストだと自分達の考えた成果を発表する場だと思うのですが、ここはそうではなく、自分達の考え方、事業をもっとプラッシュアップするためにとても役に立ち、ありがたいプログラムだと思っています。
積極的に応募してほしいです。
ただ、馬場さんに教えていただくまでこのプログラムを存じ上げなかったので、もっと広く知れ渡ると良いと思います。

 

西脇 森衛(にしわき・もりえ) 氏 プロフィール

Ph. D. CEO, CTO (Chief TSUFU Officer)
痛風シニアエバンジェリスト

バイオベンチャー、大手臨床検査センターにて、多くのバイオマーカー探索、評価、臨床実装の研究開発支援に関わる。
作物生理学専攻。
下記領域で受託試験、共同研究を多数実施。
ウイルスタイピング検査、遺伝子発現/多型解析、がん遺伝子変異解析、DNAメチル化解析、血中セルフリー核酸解析、プロテオミクス解析、マイクロバイオーム解析など。
日経BP社テクノロジーロードマップの「がん医療」の項目執筆担当
お酒を飲むために尿酸値を管理する方法を日々追及している。
好きなお酒:ビール、クラフトビール、日本酒、泡盛

小谷 佳子(こだに・よしこ) 氏 プロフィール

CPO(Chief Patient Officer)

大手臨床検査センターでがんマーカーやアレルギー検査の開発、大手バイオテックカンパニーで研究用機器・試薬の学術営業やセミナー講師などを実施。
その後、旅行業界への転職を考えオーストラリアへ留学するがコロナ禍により帰国、バイオベンチャーへ転職。
「明日死ぬかのように生きる」をモットーに、日々後悔がないよう心がけ、最終的にPPKを目指している。
好きなもの:カープ、りんご、絶景

株式会社TANSAQ(タンサク)

設立:2022年4⽉

事業内容:
①健康と疾患の境界領域である「未病」に関連する事業
②バイオ・ライフサイエンス事業向け伴走型コンサルティング事業
③受託解析事業
現在は未病の中でも、痛風・高尿酸血症を対象とした事業を進めている

所在地:福岡市中央区天神⼆丁⽬3-10-719

URL:https://tansaq.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/uricacid_management
facebook:https://www.facebook.com/uricacidmgmt/

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