INTERVIEW

VMP登録メンター
劉 雷 氏

MIT-VFJは24年間にわたり、毎年継続的にメンタリングプログラムを実施しています。
同プログラムでは、 MIT-VFJ登録メンターが徹底したメンタリング・アバイスを行い、事業計画の見直しやブラッシュアップを行います。
※ MIT-VFJ役員はもちろん、登録メンターも全てプロボノ(ボランティア)で成り立っています。

今回は、VMP登録メンターの劉 雷(りゅう・れい)さんにお話を伺います。
劉さんは先月のインタビューに登場いただいた金谷建史(かなや・たてふみ)さんのメンタリングを担当くださり、金谷さんの事業に大きな貢献をされたと伺っています。
劉さん、どうぞよろしくお願いします。

大手企業に所属しながら、ベンチャーのメンタリングを

大野

まず、劉さんのご経歴や現在のお仕事など、簡単に自己紹介頂けますでしょうか。

私は東北大学を2009年に卒業しまして、そこからキャリアを始めております。
外資系の医療機器メーカー、内資系のシンクタンク・コンサル、あとスタートアップも経験しておりまして、それ以外ですと、外資系の生命保険とかです。
今のアストラゼネカ株式会社で、実は6社めだったりします。
最初は研究開発職だったんですけれども、今はどちらかというとジェネラリストですね。
オープンイノベーションの推進をアストラゼネカ株式会社でやっております。

大野

大手企業にお勤めでありながら、メンタリングを担当しようと思われた理由は?
MIT-VFJメンターに登録されたきっかけを教えてください。

メンターになったきっかけは、確か当時の同僚の堀ゆきさんのご紹介だったと思います。
堀さんがMIT-VFJ理事の伊藤智久さんに紹介くださり、ご一緒させていただく機会をいただきました。

大野

劉さんは、メンターをご担当いただいてから何年目くらいでしょうか。

2020年からMIT-VFJにメンター登録しましたが、確か、まだ担当させていただいたのは2チームだけだったと思います。

大野

先月インタビューさせていただいた金谷さんが、劉さんを大絶賛されていて。
ということは金谷さん以外にもう1チームですね。

そうですね、2020年に初めて担当したのが金谷さんのチームだったかと思います。
その後もう1回担当していますね。

大野

そうですか。
ビジネスプランニングクリニック&コンテスト(BPCC)ではなく、VMPになってからメンタリングをご担当いただいたわけですね。

なぜベンチャーにはメンタリングが必要なのか

大野

なぜベンチャーにはメンタリングが必要だと思われますか?
どんなベンチャーが特にメンタリングを必要としているでしょう。

2、3個、視点があるのかなと思っています。
今アストラゼネカでやっているオープンイノベーションのネットワークを1つのコミュニティとして運用しつつ、オープンイノベーションを推進してますけれども、ここも実はスタートアップ・ベンチャーのインキュベーションを自分たちの一つのミッションとして位置づけて活動しております。
このネットワークの中にも国内外のスタートアップが250社近く参画いただいているような状況で、日々この中で壁打ちをしながらプロジェクトを回したりしています。

場合によってはメンタリングをさせていただく場合もあるんですけれども、2点申し上げますと、もちろんシリアルアントレプレナーで慣れている人たちは、どうやって会社を立ち上げて経営して、どうやって組織を育てていくかってのは自分の中で経験値を持っています。
そういった方は全く心配ないと思いますが、初めて起業される方って、初めて全ての経営に関する知識や経験や、失敗しないための要素、あるいは成功要因みたいな、そういったところは、きっとほとんど武装してない状態で起業してる場合が多いのかなとお見受けします。
そういった時に、しっかりした経験値を持った人が、伴走して指導したりサポートしてあげることによって、立ち上げのフェーズをスムースに手伝えるのかなとか、フライトできるのかなというのが1点目ですね。

劉 雷さん

2点目は、私自身がスタートアップ2社でスタッフとして働いた経験もありまして、如何せん組織が小さいこともあり、周りもスタートアップを見ると結構みんな畳んだり、潰れてしまったりっていうのも見えてきたりします。
実はベンチャー企業の成功要因はなかなかコピーするのが難しい場合もあって、奇跡的な出会いだったり、セレンディピティ的な部分も否定はできないので。
ただ一方で考えたのが、失敗要因って9割はかぶっているんじゃないかなというところです。
例えば組織の作り上げに失敗したりとか、資金調達に失敗したりとか、最初のMVPが当たらずにピボットに失敗したりとか。そういった失敗要因は実は結構かぶっています。
失敗しないための知識を事前に入れておくということも、すごく大事だと思います。

ということで、主にこの2点で、スタートアップにとってはメンタリングって非常に大事ではないかなと思うんです。

大野

なるほど。
どんなに強い武器を持っていても、自分が武装していないんですね。
やることがWhatだとすれば、What以外の戦うための4W2Hを教えるのがメンタリングっていうことでしょうか。

というふうに私は位置づけしています。

大野

当たり前のことですけれども、今までそんなふうに考えたことがなかったのですごく納得感があります。
金谷さんと、もう1チームはどんな事業でしたか?

確か愛媛大学で、サメで抗体医薬の候補を探すというチームでしたね。

大野

ああ、そのチーム覚えています。
そこのメンタリングはいかがでしたか。

これも本業と近かったので、それなりに整合性を生かしつつ、ご一緒できたかなと思っております。

大野

なるほど。
チームとのお付き合いは続いてますか?

メンタリング後に1回、面談をさせてもらいました。
現職と、創薬の観点でコラボレーションの可能性があるかどうか。
しかしそこは一旦、当時としては見送りという結論になりましたね。
というのも、彼らは当時まだ創業していなくて、かつその研究開発という意味ではまだまだ人間の抗体を作れてはいない状態でした。
我々の当時のコミュニケーションという意味では、人の抗体、あるいは人でのエビデンスが取れたら、もう1回コミュニケーションしましょうというところにはなりました。
今ご指摘受けてから思い出しましたけども、もう数年経っているので、今からでもフォローしなきゃなって反省しました。
このあとちょっとコンタクトをとってみようと思います。

大野

ぜひぜひよろしくお願いします。

メンタリングによって広がった事業の可能性とその実例

大野

アストラゼネカでお勤めをされながらメンタリングをしていただいていましたが、会社にはMIT-VFJでメンタリングを行っているということはもちろん報告されているわけですよね。

もちろんです。
製薬企業はどこも同じだと思いますが、有償無償関わらず、こういった本業以外の活動に関しては、ある程度報告義務があります。
こういったことでメンターをやっていますっていうのは事前にCOIの観点も含めて報告はしております。

大野

だったら安心していろいろご指導もいただけるし、メンタリングを受けるメンティーの人たちも、劉さんのバックグラウンドを使わせていただくという可能性が広がりますね。

金谷さんのメンタリングの話に戻りますが、興味深かった点、困った点、貢献できたと思われる点など、差し支えなければお聞かせください。

まずは技術に非常に特徴があると感じました。
VRって当時もバズってましたし、今も引き続き第2波、第3波でバズリ続けているんですけれども、如何せんVRってヘッドディスプレイなどのデバイスを被らなきゃいけないとかっていうものがありまして、このデバイスを使う、使いこなし使い続けるっていうのがVRを始めるときの結構大きな障壁かと見ておりました。
一方で金谷さんのソリューションは、デバイスを被った時ほどの臨場感はもちろん期待はできませんが、一方で簡単にPCでもタブレットでもスマホでもどのデバイスでも、簡単にVR空間上で自分のアバターを動かせますので、この簡便さは非常にいいなと思いました。
今でこそデバイスもちょっと軽くなりましたけど、当時は多分被ったら20〜30分でもう首が疲れるぐらいの重さのものが多くて。
ですので、当時、金谷さんの簡便なものってすごく画期的だと思いました。

大野

その点でも、金谷さんのサービスはいろいろなところで利用されているようで、素晴らしいなと思いました。
劉さんがいろいろヒントを差し上げたことによって、金谷さんの会社がちゃんと黒字化しているとお聞きしました。
すごく嬉しいです。

私は別にVRの専門家でも何でもなくて、ただ、このセッションで私が多分貢献できたとすれば、金谷さんが持ち込んできた当時は、教育ビジネスとしてこのVR技術をどう価値最大化していくかっていうところにかなり強い思いとこだわりをお持ちだったと記憶しています。

一方で多分私が差し上げたアドバイスは、もちろん教育ビジネスにも利用できる仮説は引き続きあると思うし、既に実績があるし、それは別に否定するものではないのですが、この技術は恐らくもっと幅が広がるし、違う利用シーンがあり得るみたいなことをちょっとお伝えしました。
例えばこういうシーン、例えばこういうシーン、という利用仮説をお伝えした結果、ビジネスのその後実際に利用シーンを広げるような仕事をされたっていうのは聞いているところです。

大野

診療所の実証実験をされたというニュースリリースが出ていたんですけれども、それも劉さんがアドバイスをされてたのですね。

そうですね。
まず金谷さんから仮説を聞いた時に、これは検証する意義があるなと思いました。
我々が実は今まで着眼していなかったところです。
私たちが、例えばオンライン診療やオンライン調剤といった利用支援を考える時って、どちらかというと利便性を考えがちなんです。
ユーザーが、通院が面倒だから、あるいは通院アクセスが悪いから、こういったデジタルを使ってやればいいじゃないか、というのが我々のこれまでの目線でした。
ただ、金谷さんがそのお話を持ってこられて、エビデンスって言えるほど作ってはいないのですが、それまでの初期検討でのデータを出してきてくださって、一緒に確認したところ、「心理的障壁があるから行きたくない」「あの空間が苦手だから通院ができない」「本音を話せない」とか、そういった可能性がありました。
この視点は実は今まで我々に欠けていたところでした。
そうであれば一緒に共同調査をしようということになりました。
金谷さんと大学の先生のある調査に対して、我々はちょっとスポンサードするような形でした。
調査結果は、やはり仮説のとおりでした。
例えばそれがバーチャル空間上でも、The診療室みたいな空間よりも、少し自然が見える空間とか、そういったところの方が本音が出やすいとか、とても視座に富んだ結果だったと思います。

大野

おかげさまで、今年のVMPプログラム最終審査発表会の時に、金谷さんのメタバースを使って発信しようかという話が出ております。

素晴らしい。

大野

今までZoomで発信していたのですが、もっとインタラクティブにできたらいいですよね。
メタバースを使った空間と実際の空間のハイブリッドで最終審査会をやったらどんふうになるか、今からワクワクしています。

我々も実は何回か議論はしていまして、例えばうちの社内会議のような、かっちりしたThe会議みたいな会議じゃなくて、例えば社内のちょっとした意見交換イベントとかですね、そういうところで一緒にできないか。
これも継続で意見交換をしています。

大野

なるほど。
劉さんがお勤めの会社と、金谷さんの会社と、一緒に組んでやっているわけですね。
いいですね。

ベンチャーメンタリングプログラム(VMP)に期待すること

大野

2001年〜2020年まで開催していたコンテスト形式のプログラム(BPCC)でしたが、現在はメンタリングに重点を置いたベンチャーメンタリングプログラム(VMP)に移行しました。
これについて何かご意見とか、思いがあれば聞かせてください。

私もメンタリングに関して関わり始めたのはアストラゼネカに来てからです。
来る前はスタートアップの中の人間でしたので。
例えばベンチャー企業さんとのミートアップだったりメンタリングだったり、あるいはアクセラレータープログラムの参加だったり、いろいろ触り始めるようになったのは本当にここ5年です。
ですので私もそんなに別にメンタリング歴は長くないです。
それを前提として思うのが、MIT-MFJってすごく密だなと。
他に関わっているプログラムに比べると、メンタリングの密度が非常に高いと思います。
私自身、例えば1チームを3ヶ月伴走し、ほぼ毎週のように会っていました。
しかもこのプログラムでは、コロナの中ではなかなかリアルは難しかったとは思いますが、合宿もありますし、コミュニケーション密度が非常に高いなと。
だからこそ、それぞれのチーム参加者、特にメンティーの皆さんが得るものは、非常にたくさんあるだろうと感じています。

一方で、世の中への認知度という意味では、メンティー候補の皆さんへの情報のペネトレーションが不十分かなと思います。
もう少しみなさんに情報を届けられるといいですね。

大野

それは本当に我々の最大の問題点です。

劉さんの今後の取り組み

大野

劉さんご自身の、今後の重点活動があれば、差し支えない範囲でご紹介ください。

ありがとうございます。
アストラゼネカでオープンイノベーションのネットワークを立ち上げて運用してきて、もう少しで4年経つこところです。
今まで、どちらかというとコミュニティを作って、実証実験的にPoC(Proof-of-concept)みたいな小さいプロジェクトを量産してきたところでした。
今後数年間は時間と労力をかけて、PoCの中でも、スケーラビリティを持ちそうなプロジェクトをしっかり大きく育てて、インパクトを出していきたいなと、今は考えています。

あとは、医療のサステナビリティですね。
これはアストラゼネカの中でもキーワードではあるのですが、持続可能な医療システムのあるべき姿ですね。
我々の今やっている取り組みという意味では「もっとデータ活用をうまくやりましょう」「デジタルをもっと活用していきましょう」「医療経済性を意識したモデル作りをしましょう」とか、こういったものはまだまだ発展途上なものが多いので、試行錯誤を経て、しっかり日本に社会実装して日本の医療課題を解決できるような、そういったプロジェクトを育てていきたいというのが、今、頭の中にあることです。

大野

さすが大企業ならではのいろいろな取り組み、素晴らしいです。

VMP応募者ファイナリストへのエール

大野

全般的なことなんですが、私どもの組織に何かリクエストはありますか?
また、これから応募する人たち、ファイナリストになって頑張る人たちに向けてのエールをお願いできればと思います。

メンティー、ファイナリストの皆さんにアドバイスって言ったらおこがましいですけども、自分が技術を持ってビジネスプランを持って、突破力を持ってやっているというのは大前提だとして、全てのメンターもそれに対してリスペクトがある前提でアドバイスをしてるんですけれども。
なるべく傾聴姿勢で入った方がいいのかなと思ってまして。
というのもメンターの皆さんは経験豊富で、様々なスタートアップのこのフライトの初期の頃を見てきています。
その上でのフィードバックですので、ちょっと自分の今持っている考え方と違うとしても、それを1回しっかり受け止めて、しっかり咀嚼するプロセスを持ってやった方がいいのかなと思います。
自分はそれは聞かないという感じで、それをすぐにかなぐり捨てるようなスタンスは避けないと、機会損失になることがあるんじゃないかなと思います。

大野

いやあ結構いらっしゃるんですよ、そういう方がね…。
傾聴が大事っておっしゃっていただくことは、今まであまりなかったと思います。
他のメンターの方々ももちろん素晴らしいことを伝えてくださってますが、今日もまた新たな視点をお聞きすることができたので、とても有意義なインタビューでした。
ありがとうございます。

劉 雷(りゅう・れい) 氏 プロフィール

Lei Liu, Ph.D.
Innovation Partnerships & i2.JP, Director
AstraZeneca K.K.

Joined current position in 2020 with experience as R&D engineer in a global medical device company, think-tank/consulting firm, star-ups and life insurance company. In charge of promoting open innovation of AZ Japan and leading community management of open innovation network i2.JP.
Initiates collaborative projects among partners including academia, public-private sectors and start-ups, with purpose to realize “patient-centricity”.


アストラゼネカ株式会社
イノベーション パートナシップ & i2.JP ダイレクター
新卒でグローバル医療機器メーカーに参画し、医療機器の研究開発や大学との共同研究に従事。
その後、内資系コンサル/シンクタンクに転職し、自動運転やフレイルをテーマとしたコンソーシアムの組成・推進を担当。スタートアップや生命保険会社などを経て、2020年1月 アストラゼネカ株式会社に入社。「i2.JP」の設立、運営をリード。
「患者中心主義」を実現すべく、産学官連携やベンチャー企業との共同プロジェクト立ち上げに従事。

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