INTERVIEW

ブランディングは攻め、知財は攻めるための守り
〜弁理士を味方につけて、事業の土台を盤石に〜

今月は、日本MITベンチャーフォーラム(MIT-VFJ)で監事を務めて頂いている佐々百合子さんに、MIT-VFJと係わられてきた歩みとご自身の思い、起業家に対するアドバイスなど、お話を伺います。

昆虫好きだった女の子が弁理士の道へ

大野
今日はお忙しいところをありがとうございます。
まず、佐々さんは弁理士というお仕事をお持ちですが、弁理士としてのキャリアを始めるきっかけとなった背景について、自己紹介を交えて教えてください。
佐々
こちらこそ、今日はありがとうございます。
私は、3歳になったぐらいから昆虫採集をしていて、夏休みになると捕虫網を持って外を駆け回っているような子どもでした。その昆虫好きが高じて、大学は生物学科に進み、大学院では、昆虫の紋様形成に関わる研究をしていました。
でも、研究だけでなくて教育にも強い関心があって、大学院卒業後の最初の就職は、個別指導の学習塾の教室長をしていました。
塾では子どもたちに勉強に興味を持って貰うこと、そして勉強して成績を上げて貰うことが仕事になるわけですが、段々と、自分が何か具体的な勉強をしていない状態で、子どもたちに「勉強しよう」と言っていることへの違和感が強くなってきてしまって、何か資格試験の勉強をしようと考えて選んだのが弁理士でした。

もともと、「弁理士」という資格のことを知ったのは、高校生の時でした。
同級生のお父さんが弁理士で、高校3年生の時だったと思いますが、どんな試験を受けるんだろう・・・と問題集を見たことがあります。
当時は法律なんて読んだこともないですし、特許法の条文をちらっと見ても、何を意味するのかほとんど分かりませんでした。こんな資格を取るなんて、難しすぎて絶対無理だな…と感じたのを覚えています。

そんな資格試験の勉強を始めると、法律に親しんでいないとやはりよくわからなくて、これは腰を据えて勉強しなければならないと思い立ち、某大学の産学官研究推進センターで知的財産関連の業務に携わりながら本格的な勉強を開始しました。
その後、製薬会社の法務部の知的財産担当に転職し、知財の仕事をしながら資格を取得しました。
資格取得後は、知財だけでなく企業法務にも携わりたいと考え、契約審査も担当していました。在職中に一度休職して、特許庁審判部で審判決調査員として勤務したこともあります。

第2子出産後、夫が以前から義父の出身地である秋田で特許事務所をやりたいと言っていたことと、出産時にトラブルがあって、企業での仕事を続けることが難しくなったことを機に、私も一緒に秋田に移住し、現在は、夫と義理の父と私の弁理士3名で特許事務所を営んでいます。
大野
勉強して資格を取られたのは、おいくつの時でしたか?
佐々
すぐに思い出せないのですが、30代の時です。
なんだか難しそうだなと思って、一度就職して、その後に資格を取りました。
大野
女性の弁理士の方は少ないですよね。
佐々
そうですね、やはり理系の資格ですので、理系に女性が少ないからということもあるとも思います。
ただ、弁理士の業務内容は法律でもあるので、一時期よりは女性もそれなりにいるかな…やはり少ないのかな。
弁理士の一番の仕事は、特許に関わるところなので、そうすると技術系で理系の方が多いということになると思うんですよね。

そういう意味では、私は理系でよかった。
理系の知識と、法律と、全然違う2つの能力や知識が必要になってくるんです。
法律も学ばなくてはならないことは最初戸惑いましたが、今となっては意外と私に合っていたんじゃないかと思います。
弁護士とか初めから目指していてもよかったか…と思うくらいなので(笑)
結構やってみると慣れますね。
最初は、こんなまどろっこしいわけがわからない法律条文を、何で読まなきゃいけないんだろう…なんて思っていました。

資格を取った後は、知財だけじゃなくて企業法務も関わりたいと思って、法務部でもあったので契約審査に関わってみたりもしました。
私の経歴はちょっと変わっていて。
私は在籍していた会社で初めて弁理士になったので、社長も認識してくれていました。
その時に、特許庁にもちょっと行ってみたいなと思いました。
会社は私を休職させてくださって、特許庁の審判部で審判決調査員という形で勤務していたこともあるんです。

弁理士の中ではちょっと珍しくて企業にもいたし、特許庁にもちょっといたし、今の事務所もやっています。
知財に纏わる3つの立場を経験しているので、何か生かせないかなとはいつも思っています。

MIT-VFJの監事として、客観的に見ながら支える

大野
佐々さんは古くからの友人で、私がお誘いしてMITベンチャーフォーラムの正会員になって頂き、監事、つまりボードメンバーに入って頂いたわけですが、どのような経緯で監事をお受けいただいたのでしたっけ?
佐々
そうですね、何度かBPCCの最終発表会に参加したことがきっかけで正会員になりました。
もともとは大野さんも監事をされていて、監事をしながら色々学ぶこともできるから、良かったら監事にならないかとお声がけ頂いたのを覚えています。
監事に加わったのは、2009年からです。
BPCCの審査委員長で、現在VMPでもメインコメンテーターを務めて頂いている東大の各務先生と一緒に飲みに行ったのは、監事になった後だったような気がします。
監事になった直後のBPCCの最終発表会の際に、各務先生に監事になったことなどをお伝えしてご挨拶しているうちに話が盛り上がり、飲み会をしようという話になったのですよ。
せっかくなので、いつも最終発表会でしかお話していないから、MIT-VFJの理事の皆さんにもお声がけし、セッティングしました。
大野
NPOの監事としてMITベンチャーフォーラムの仕事についてどのような姿勢で臨んでいらっしゃいますか。
佐々
実は、私自身も別のNPO法人の代表を務めて運営していることもあり、活動を継続していく事の大変さや遣り甲斐は身をもって知っているつもりです。
MIT-VFJでは理事ではなく監事なので、理事の皆さんが動きやすいように、そしてMIT-VFJの運営がスムーズにいくように、継続していくように、一歩離れたところから客観的に見られるようにしたいと思っています。
そして、やはりこのMIT-VFJの活動は素晴らしいと感じていますし、毎年増えていくファイナリストの皆さまからは勇気と元気を頂いていて、ぜひとも応援し続けたいと思っていますので、この組織に関わらせていただいていることに、とても感謝しています。
大野
要するに我々執行部がやったことに対して、ガバナンスが効き、きちっと運営しているか、方向性としてそれで良いのかどうかということを見ていただくお役目ということですよね。
佐々
そうですね。

知的財産の重要性

大野
知財はテクノロジー関係のスタートアップやベンチャーにとって、避けて通れないものです。その重要性について聞かせてください。
佐々
そうですね。
スタートアップやベンチャーにとって、知財は避けて通れないというのは、やはり、知的財産権、特許や意匠、商標が独占的な権利であるからだと思います。
万能とはいえないのですが、やり方次第では、それが武器になるという点だと思います。
観念的なお話で申し訳ないのですが、技術は特許権として守る、優れたデザインがあれば意匠権を取得する、ブランドを創り上げるにはその前提として商標権を取得する、これが基本です。
これらがあって初めて、特に資源の少ないスタートアップやベンチャーが他の企業と対抗していくスタートラインに立てると思います。
もちろん、資金調達の上でも知的財産があるとないとは大違いです。
大野
秋田でも結構ベンチャーの活動が盛んになってきているようなのですが、例えばにかほ市ではベンチャー支援のプログラムを立ち上げて、我々MITベンチャーフォーラムの役員たちも参画してやってますよね。
秋田とにかほは離れていますが、同じ秋田県ということで関わりあったりしていないのでしょうか?
佐々
秋田県内でそういうことをやっており、MITの皆さんもメンターに入ってくださっていて、そのメンタリングが終わると、「この後どうしよう・・・・っちよ?」ってMITのメンターの皆さんはやはり感じるんですね。
普段からボランティアで深く関わっている方なので。
そんなときに「こういう方がいるんだけど、何かあったら相談に乗ってくれないか」ということで、メンターの方が私に繋いでくださって、何か相談があったら引き続き相談を受けたりするということはしています。
大野
そういう方たちが佐々さんに相談して、その後なにか成果が出ていることはありますか。
佐々
にかほではありませんが、今、ある方はIT系の事業をやりながら、もう1つNPO活動もしようとしていて、休眠状態だったNPOを引き継ぐことになったんです。
「そういうことをやりたいのだけど、どうしたらいいでしょう」ということで、私自身もNPOをやっていることもあり、一緒にそのNPOを引き継げるように活動しています。
これは弁理士としての仕事ではないのですけど。
事務処理的な部分や、どうやって受け継ぐかとかいう話をしているうちに、結局理事に加わり、そのNPOを活性化していこうという動きが出ています。
10年ぐらい放ってあり、登記とかもちょっとぐちゃぐちゃ状態のNPOだったので、新しい登記が通ったら、定款も全部変更して、というように動いていく予定です。

知財は、薬でいうところの『治療薬』ではなく『予防薬』

大野
知財を活用し競争力を高めていくためには知財がとてもっ大事だということを、秋田やその周り方たちも認識されていますよね?
それともまだまだ認識が不足していますか?
あるいは、認識はしてるけれども、なかなか行動に出られない感じですか?
佐々
認識自体もどちらかというと低いという感じですかね。
知的財産が企業にとってメリットあるのかという意義を感じにくいというところが多分ちょっとあると思うんですよね。
知財って『攻め』の対抗手段ではなくて、どちらかというと防御的な位置づけなんです。
例えば、薬とかだったら『病気になりました。薬を飲みました。治りました』ということでその飲んだ薬の価値や効果がわかりやすいのですけど。
薬でいうと、『病気の治療薬』ではなくて『予防薬』みたいなイメージですかね。

予防はされるけど、本当に病気にかかったかどうかもわからないし、予防ができているのかどうかも見えないという、『見える化』されないというところが、知的財産の価値を感じにくくさせている難しさだと思いますね。
大企業なら出願をたくさん出すので結果が見えてくるんですけど、1件2件の少ない出願の中で、その意義をわかるというのはなかなか難しいと思うんです。

弁理士に相談する最適なタイミング、実は…

大野
知財という、その概念自体があまり理解されてないこともあるのかもしれませんね。
例えば特許だったら「特許を取っとかなきゃ」ということで、あるいは特許を取ったらもう特許取っただけで事業が出来上がっちゃったみたいな気になっている人も中にはいらっしゃいますし。
まだよく知財全体を理解されてないところがあるのかなと思うんです。
例えば最近の事例で、佐々さんが、もっとちゃんとやっておいた方がよいのではないのかと感じられた事例があれば教えてください。
佐々
守秘義務があるのであまり具体的な話はできないのですが。、最近の事例というか、いつも感じているのは、大体は研究開発が終わって、製品がほぼ決まって、名前を決めた後に相談に来るのです。
でも私達が関われるところは、どういうネーミングがいいか、どうしたらブランディングに役に立つかというところからがあるのです。
全部決まっていて、もう変えられないという状態で来るのではなく「これからこういうことをしようと思うんだけど、どういうふうにしていったらいいだろうか。どこがどんな特許を出しているのか、どんな名称のどんなサービスがあるのか」というところを一緒に調べるところから関われると、本当はもうちょっと有効に使えるのですよね。

なぜその名前にしたのかという裏の理由とか…そのサービスや物を買う理由って、どんな商品でどういうふうに作られたという、そのストーリーが結構大事だったりするので、そこを一緒に作っていけたらなと思いますね。
社内だけよりは外の目が入って作った方が、より良いものが出来上がるというのはありますね。
大野
ということは、社名ひとつにしても、登記する前から相談してよっていう感じですかね。
佐々
本当はそうですね!
その方が相談に来られたときには、もうこれがいいって思い込んじゃって来るわけですよ。
そのときに、それが駄目(登録できない名称)だったりすることもありますし。
あと社名(商業登記)と商標権ってちょっと違っていて。社名だったら地方自治体などある一定の商業圏内の中で同一の全く同一の名称がなければ登記は認められるんですけど、だからといって商標を取れますかというと、商標は日本全体の全国区なんですよね。
「社名はOKだったけど、商標権は取れませんでした」ということはよくあるのですが、そういうことでいいのか、ということも考えなければいけないですね。

ブランディングと知財の意外な結びつき

大野
なるほど、そうするとブランディングと知財は密接に結びついているってことですね。でも、その結び付きを認識している人って少ないかもしれませんね。
佐々
そうですね。
でも必ず、ブランディングがうまくいっているところは、きっちり知財をうまく使っているということは事実です。
大野
ブランディングという概念と、知財という概念の、その棲み分けというか、区分けというか違いというか、融合というか、その辺はどうでしょうか?
佐々
ブランディングの方がやはり広いですよね。
いろいろな方向性がある、その中の柱の1つが知財です。
ある技術を持っていて、それはちゃんと特許が取れている、特許が取れているということは、他にはないものだという差別化の1つの手段にもなります。
商標を取れば、その名称は他が使えないので、自分たちだけが使える名称として、どんどんブランディングを強化していく繋がりになっていく。
という1つの柱で、それを置きざりにして、それが何か知らない状態でのブランディングは難しいと思っていた方がいいと思います。
大野
そうすると『ブランディングは攻め』であって、『知財は攻めるための守り』ということになりますか。
佐々
そう、そうですね、はい!
素晴らしいですね!
大野
すっきり整理ができた気がします。ありがとうございます。
その辺をもっと多くの人に知っていただきたいですね。
もちろん当たり前のことで、頭の中には入っているんだけれども、それを関連付けて考えるということがどうもできてない可能性がありますよね。
佐々
だから多分相談に来るのも遅いんですよ。
社内に知財部門などを設けることができないような中小企業やスタートアップは、むしろうまく弁理士を活用して、初期段階から関わってもらうようにすればいいと思うんですよね。
大野
弁護士は割合にすぐに相談したりする機会が多いと思うんですけれども、弁理士はそこまで認知されていないというか、その必要性を今ひとつわかっていないというところが多いんでしょうね。
佐々
そうですね、弁護士と弁理士は人数的にもやっぱり違う、弁理士は少ないので。
弁護士さんってとても多くて、日常的に耳にすることも多いのですが、弁理士さんって周りに知ってる人はいないし、誰に頼んだらいいかというところは、なかなか難しいですよね。
大野
なるほど。
弁理士の地位向上もやらなければなりませんね。
佐々
そうですね、国では頑張ってやってますけどね。
大野
なかなか一般的には取り上げられていないし、例えばテレビドラマで弁護士が活躍するようなものがあったとしても、弁理士が同じような感じで活躍するようなテレビドラマってないですもんね。
佐々
一昨年くらいにドラマがあったんですよ。
話題になったのかどうかは知らないのですが。
日本弁理士会のHPを見ると「創業して3日以内に弁理士にコンタクトを取れ」みたいな動画も作っていて、日本弁理士会的には頑張ってるのですけどね。
大野
なるほど。押せ押せになっちゃうんですね、いずれにしても。
佐々
そうですね、気づいたのが遅かったりするんです。早く言ってと本当に思います。
大野
私は幸せです。
すぐそばに佐々さんという人がついていてくださるので、何かと相談ができるので良かった。
佐々
わかっていればより良い対応ができるので「こういうことをやっている」「こういうことを目指している」「こういう商標がほしいと言っていた」などというものがあると、こちらでチェックして「あの商標が取れるようになっていますよ」などと、いろいろ言えるので。
やはりコミュニケーションはすごく大事で、ただ代書してもらう人ではなくて、事業全般の相談をしていくということが大事かなと思います。
大野
そうですね。
外資で働いていたときに、法務系の仕事もしていたので、知財のネーミングなどで結構紛争があったんです。
いつからその名前を使っていたんだみたいなものを調査して……そんな経験があったので、認識は高い方じゃないかなと思うんですけど、でないとなかなか知財に対する理解は高くないかもしれませんね。
佐々
やはり事業をやっていると失敗することもあって、誰かから訴えられたりして困った経験のある方というのは早く相談に来るようになりますね。
一度経験があるとそうなるんですけど、それがないうちに本当は来てもらいたいなと思います。
大野
守りなさいってことですね。

まず壊すところから始める、メンタリング合宿のおもしろさ

大野
ところで、毎年開催してきたBPCCや現在も推進中のVMPについて、佐々さんは幹事としてのお立場で印象深いことなどありますか?
佐々
監事としての立場…ということではないのですが、やはり、MIT-VFJのメンタリングは素晴らしいなと感じます。
特にメンタリング合宿での変化を見ているとワクワクします。
私は長年監事を務めていたものの、子育て等で合宿にフルには参加できておらず、コロナ禍が落ち着いて再開されたメンタリング合宿に、一昨年から初めて合宿にフル参加しました。
メンティの方が積上げて考えてきたものを、場合によっては一度崩すところから始めて、変化していく様を見ているのはとても楽しいです。
メンティの方がきっと一生懸命考えてきたものを、それをまず壊すところから始めるんだ、メンタリングって!ってのがすごく面白いと思いました。
合宿の終わりの頃には違うものに変わっていたりということが本当にあるんだな、というのを目の当たりにしました。
大野
そういう意味では合宿はハイライトですよね。
合宿に参加することにより、このプログラムの面白さが、よくわかるんじゃないかと思いますね。
佐々
私はネーミングを考えることにも関わってきたからか、難しい言葉や伝わりにくい表現をなるべくわかりやすく、イメージしやすい言葉や表現に変えるのが好きで、メンティとメンターの方がプレゼンテーションの中でどんな言葉で伝えようかと考えているところにちょっと加わらせて頂いて、こんなのはどうでしょうと言った時に、あーなるほど!と喜んでもらえた時が何だか嬉しかったです。

それと、意外に面白いのが、BPCCやVMPでの贈賞とその後のビジネスの展開が必ずしも一致しないことですかね。
継続は力なりといいますが、全てそぎ落とした最後に残るものは、メンティ(ファイナリスト)の方が、ご自身のビジネスによって実現したいことへの強い想いなんだなぁと感じます。
もちろん分野によっては時間を要するものもありますが、最終的には諦めないことだと…私も頑張ろうといつも力を貰っています。

能力と経験を活かし、佐々さんが取り組む活動

大野
秋田で活動を続ける中で、今後特に取り組みたいプロジェクトや目標は?
佐々
先ほどの知財を活用して競争力を高めるためのアドバイスとも繋がる話ですが、親しくさせていただいている商業デザイナーと商業専門のカメラマンがいるんです。
その方々と私と3人でトリオを組んで、既存商品のリデザインや新商品開発をサポートする活動を始めようと準備しています。
というのも、私たちは今までそれぞれの立場で様々な商品に関わる撮影、商品開発、パッケージデザイン、宣伝広告、知的財産の権利化やブランディングなどに関わってきています。

そして仕事をする中で、「本当はこの部分をああした方が良いのに…」とか「決めてしまう前だったら、ああするようにと提案ができたのに…」「もう少し早く相談してくれればよかったのに…」といった場面にたくさん遭遇してきた、という共通点を持っています。

それなら、3人それぞれの視点を持った上で、既存商品のリデザインや新商品開発に関わったら面白い相乗効果が生まれるのでは?と意気投合したのです。
いまは、トライアルとして「本気で取り組みます!」という方を探し始めたところで、これから個別にお声がけしていく予定です。もし興味のある方がいれば、ぜひご連絡いただけたらと思います。
大野
なるほど。そのプロジェクトを収益の上がるプロジェクトにしていきたいと思うんですね?
佐々さんも私もそうなんですが、NPOということで、自分の収益に繋がらない献身的な活動をずっと続けているんですけど、やっぱり何かやる以上は収益を上げないと長続きしないなと思うんです。
その収益を上げるために、今の新しいプロジェクトは、どういう取り組み、方法を考えていますか。
集客はどうするか、とか。
佐々
まず1つ成功例を作るのを今目指しているので、本当にやりたい方を選んで「この人なら」という人を決めたら、その人を絶対に3人で成功させようと言っています。
それも成功報酬型で全然いいので、とにかく1つの成功事例をあらゆる方法を使ってやろうというのが最初です。
それでまた次が出てくるというふうに、とにかくまず1つ。、そのトライアルの人を誰にするか、どんなことをするかというのが一番重要だなと思い、そこはじっくり考えています。
大野
秋田の事情には疎いのですが、デザイン系の会社はたくさんあり、やはりOne of themだとしたら、他にはない素晴らしいことを打ち出していかないといけないと思うんですね。
弁理士も何人もいらっしゃるとすると、どうして佐々さんのところへお願いすればいいのか、要するに差別化をどのように考えているか教えてください。
佐々
私は企業経験と、一時的ではありますが特許庁にいた経験があります。さらに特許事務所をやっているという、知財にまつわる3つの立場を経験しています。
あと、企業の中では商品開発の人達とたくさんやり取りをして、ブランディングにも実際に関わっていった経験もあります。
知財だけでなく法務部にいたので、法律関係契約の審査にも関わり、秘密保持契約やライセンス契約はもちろん、それ以外の企業法務における契約審査などもしていた経験があります。
つまり、事業全体を見ることができるっていうところでしょうか。

弁理士というと卒業後資格を取りそのまま特許事務所にいくという方の方が多いので、そこは他の弁理士の方とは違う部分かなと思っています。
大野
そういうお立場だと、クライアントにとっては何がヴァリューとなりますか?
佐々
知財は守りですよというところと似ているんですけど、初めに契約書などで何か問題になりそうなことを想定し、それに対する準備だとか、そうなったらどういうふうに処理をすればいいかということに対処できるので、リスク管理的なところができるということだと思います。
大野
弁護士でも税理士でも、クライアントが向かう方向性や利益を考慮するのではなく、法と税務と自分の仕事をベースに、ネガティブにアドバイスする人がわりあい多いんじゃないかという気がします。
もっと起業家にフレンドリーな弁理士あるいは弁護士に、たくさん増えてほしいなと思っています。
佐々
やはりリスクは説明しなければいけないのですが、そのリスクを取る選択もありだと思うんですよね。
常にリスクのないことだけをしていたら成長しないので「こういうリスクがあります、それでもやりますか?」って、やるんだったらやはりそれは応援していきたいなと思いますし。
リスクを取るという決断をするのは経営者の方で、それをされたんだったら、その状態での応援をするしかないですよね。
大野
そうですよね、つまり、ブレーキを踏むだけではなくて、アクセルを踏む手伝いをしてあげるみたいな感じかな、言ってしまえばね。
そんな人がたくさん増えたらいいなと思っておりますので、佐々さんもぜひお願いします。

VMP(ベンチャーメンタリングプログラム)への応募を考えるみなさんへ

大野
今年もVMPを開催する予定です。
これから応募を検討される皆さんへのアドバイス、声援など、お願いします。
佐々
もし迷っている方がいたら、ぜひ、VMPに応募して欲しいです。
応募することで、ご自分でも思っていなかった繋がりが広がると思います。

また、繰り返しになりますが、研究開発をしたらその成果を特許として出願する、新しい商品を開発したら、その成果として意匠権を出せないか検討する、商品やサービスをリリースする前に名称を付け、それを商標権として取得する。これがまず基本です。
研究開発をしたらその成果を特許として出願する、新しい商品を開発したらそれは意匠権にならないかなという視点で見てみる。
商品やサービスをリリースする前にちゃんと名前をつけて商標権を取得していく。

そして、どうしても多いのがその場限りの相談、気になった時だけ相談に来る、というケースですが、そうではなく、なるべくこまめに、われわれ弁理士も進捗状況が理解できる形で相談できる関係を作るのが理想です。
状況が分かっていると対応も早くなりますし、研究開発の初期段階で締結する秘密保持契約書や技術が完成後に締結するライセンス契約などについても、知財の活用を念頭に置いたアドバイスなども可能になります。

共同研究の成果物の特許出願の相談に来て、いざ共同出願契約を結ぼうとすると、元にある秘密保持契約や共同研究契約の内容に縛られてしまい、不利な契約を結ばざるを得ない…などということ実際によくある話なんです。

よくある共同研究とかもそうですけど、共同研究の成果物の特許出願の相談に来て、いざ共同出願契約を結ぼうとすると、元にある秘密保持契約や共同研究契約の内容に縛られてしまい、不利な契約を結ばざるを得ない、自由度が低かったりするということもあります。
やはりその交渉のところでも力を貸せる部分もあるので、ぜひエントリーするしないに関わらず、もうちょっと知財への関心を持っていただきたいなと思っています。

さらに、知財の活用で言うと、特許権と意匠権は存続期間がありますが、商標権は更新することで半永久的な権利となります。
その点、最後の砦は商標権です。
どんなネーミングにするのか、どうブランディングしていくのかはとても大切で、それを初期段階になんとなくの名称で決めてスタートしてしまう、それはとても勿体ないと思います。
弁理士という知財の専門家をぜひ上手く活用して欲しいです
大野
ありがとうございます。
そうすると、顧問弁理士を持っているといいわけですよね。
佐々
そうですね、ただ、「そんなにね…」っていうところもあると思うので、弁護士の顧問契約とはまたちょっと違う形で、ある程度フレキシブルに対応しています。
私達もすごくフレキシブルな形の顧問とかもやっていたりするので、その辺も相談すればいいんですよね。
佐々
「自分のところはこんなだから、何とかこんなふうにしてお願いしたい」と、個別に相談すればいいんですよ。
こうじゃなきゃいけないという顧問契約はないので。
何でもそうですけど「1年に何回だけ相談したくて、1回これくらいでできないんでしょうか」とか、そういうのはありだと思うんですね。
大野
私は佐々さんがうちの顧問弁理士だと思っております!
本日は、起業家にとってとても有益なお話をありがとうございました。

佐々 百合子(ささ・ゆりこ) 氏 プロフィール

弁理士(特定侵害訴訟代理業務付記)
JPAA 知財経営コンサルタント
日本MITベンチャーフォーラム監事
特定非営利活動法人NAOのたまご代表理事
NPO法人ダイアローグ実践研究所理事
東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻修士課程修了

製薬会社に勤務する傍ら弁理士試験に合格し、弁理士登録。在職中に休職し、特許庁審判部にて審判決調査員としても勤務。現在は、秋田市で夫と特許事務所を共同経営し、企業・特許庁・特許事務所という知財に関わる3つの立場での経験をもとに、秋田県の中小企業を中心に出願、発明相談を行っている。
また、ライフワークとして、出産時のトラブルで重症心身障害児となった第二子が2歳3か月で他界した直後より、障害を持つ子の子育ての現実を知るものとして、不足する支援の具体化や障害児者への理解を推進するため活動(特定非営利活動法人NAOのたまご)や、誰もが抱えている生きづらさに向き合い対話により解消していくためのダイアローグの活動を行っている。

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