MIT-VFJは24年間にわたり、毎年継続的にメンタリングプログラムを実施しています。
同プログラムでは、 MIT-VFJ登録メンターが徹底したメンタリング・アバイスを行い、事業計画の見直しやブラッシュアップを行います。
今月より、2024年開催のVMP(ベンチャーメンタリングプログラム)第24回ファイナリスト5人の方に順次お話を伺います。
お楽しみに。
まず、お一人目は、Herofinder Ltd Director、CEOの大竹 明子さんに登場いただきます。
日本にまだ概念のない『キャリアウェルビーイング』 〜キャリアとウェルビーイングを両立する新たな取り組み
- 大場
- 貴社のご紹介と、今回VMP24に応募され、メンタリングを受けた結果であるビジネスモデルを読者にわかりやすくご説明ください。
- 大竹
- 私たちは、働く人のウェルビーイングを高めるためのプラットフォーム「HEROFINDER」を開発しています。
私たちが目指しているのは、職場における「心の充実や幸福感」を向上させることです。
このプラットフォームを活用することで、ユーザーは個々のニーズに合わせたパーソナルな提案を受け取ることができて、人と繋がったり、学習するための適切なイベントやプロジェクト、成長機会を体験できます。
従業員が自発的にネットワークを広げたり、異業種のプロジェクトに参加できるようになる他、スキルのギャップを埋めながらキャリアアップや自己実現を図ることが可能になります。
キャリアとウェルビーイングのバランスをとりつつ、自己実現できるようサポートして行きます。
- 大場
- なるほど。
では、ビジネスとしての収益モデルはどのように考えていますか?
- 大竹
- まず企業内で分散している従業員支援の情報や施策を一元化することに取り組んでいます。
初期段階では、企業と連携し、従業員のエンゲージメント向上やウェルビーイング指標の改善を目的とした施策を統合・最適化して提供する計画です。
当面は、企業向けにカスタマイズした施策の提供やコンサルティングを通じて収益を確保する方針です。
将来的には、AIを活用したパーソナライズ機能を搭載したデジタルプラットフォームを開発し、サブスクリプションモデルやプレミアム機能を導入する予定です。
これにより、企業は従業員の成長と幸福感を高めるソリューションをより手軽に導入できるようになります。
- 大場
- 具体的にはどのような仕組みで、それを実現するのでしょうか?
- 大竹
- 現在、多くの企業では従業員向けにさまざまな人事施策を実施しています。
福利厚生の提供、職業訓練や研修プログラム、ウェルビーイング向上の施策などがありますが、こうした取り組みは全社一斉発信が多く、従業員一人ひとりにとって最適な形で提供されにくいという課題があります。
私たちは、この問題を解決するために、AIエージェントを活用した個別最適化の仕組みを取り入れます。
比較的デジタル化しやすい、従業員が参加できるイベントやプログラムなどから入れて行き、一人ひとりに最適な形で提供することを計画しています。
- 大場
- なるほど。
個人に寄り添うウェルビーイング提案を大切にするわけですね。
- 大竹
- はい、その通りです。
ただ、この話をすると、「自分は仕事が好きだからウェルビーイングなんて必要ない」と考える方もいます。
でも、スポーツアスリートの例を見れば分かるように、彼らは心身のコンディションを整えることを何よりも重要視していますよね。
無理を続けるとパフォーマンスが低下し、キャリアが短くなるからです。
働く人にも同じことが言えます。
仕事に情熱を持ち、高い成果を出したいのであればこそ、自分のウェルビーイングを整えることが最優先であるべきですなんです。
HEROFINDERが提供する企業と従業員にとってのメリット
- 大場
- 法人にとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか?
- 大竹
- 私たちのビジネスモデルでは、法人が顧客で、従業員がユーザーとなります。
HEROFINDERを導入することで、企業は従業員向けの施策をデジタル化し、データを活用することで投資対効果を可視化できます。
具体的には、従業員の参加率や離脱パターン、フィードバックなどを一括管理できるため、施策の有効性を明確に把握できます。
短期的には無駄なコスト削減、中期的には離職率低下、長期的にはリーダー候補の育成と企業の成長を促進します。
HEROFINDERは従業員を元気にし、企業の成長戦略に寄与する仕組みなのです。
- 大場
- 従業員にとってこのサービスはどのような意味を持ちますか?
- 大竹
- HEROFINDERに登録すると、従業員はまず、自分のスキルやキャリア目標、理想のウェルビーイングについてヒアリングを受けます。
そのデータをもとに、AIエージェントが個々のニーズに応じたイベントや成長機会をパーソナライズして提案します。
このサービスの大きな特徴は、単に情報を提供するだけでなく、参加後のフィードバックを蓄積し、学びの継続を支援することです。
例えば、研修やイベントの振り返りを促すことで、単発で終わらず、キャリア成長につながるループを作ることができます。
また、HEROFINDERはスキル開発だけでなく、従業員のライフステージや価値観の変化にも対応します。
キャリアアップを目指す人には挑戦の機会を、ワークライフバランスを重視したい人には柔軟な働き方を提案するなど、状況に応じた最適な選択肢を提供します。
個人のプライバシーにも最大限配慮する必要がありますが、企業が活用するのは集合データのみです。
従業員が安心して利用できる環境を整えつつ、企業にとっても有益なデータを提供できる仕組みを作ります。
- 大場
- なるほど。
従業員は自分のこういう心情とかをちゃんと伝えながら、その個人によらないレコメンドみたいなのをしてくださるし、企業側は集合的なデータを使ってどういうプログラムを導入すればいいんだろうかみたいな検討も進められるということですか。
- 大竹
- そうですね。
さらに言うと、ウェルビーイングという概念には、家庭や人間関係といった仕事以外の要因も大きく関わります。
しかし、あまり範囲を広げすぎると、プライバシーの問題から、個人情報を詳細に提供したくないと感じる人も少なくありません。
この点でいうと、キャリアを軸にすることで情報を集めやすくなります。
また、ユーザー自身が意識しないうちに、心の状態の良し悪しがデータから可視化できるようになります。
例えば、普段は積極的に参加していた成長機会を避けるようになったり、特定のフィードバックが減少したりすることで、心の状態に変化があることが分かります。
企業にとっては、こうしたデータを活用することで、職場環境の課題をより客観的に把握できるようになり、適切なサポート体制を構築できるようになるでしょう。
- 大場
- これは日本の企業向けのサービスですか? それとも世界中で展開する予定でしょうか?
- 大竹
- まずは日本市場からスタートし、特にウェルビーイング関連の予算を持つ大手企業向けに提供することを考えています。
ただし、大手企業となると、海外子会社や在日外国人従業員の利用ニーズも出てくるため、初めからグローバル展開を視野に入れています。
まずは日本の企業に響く形でサービスを作りつつ、国際的にも適用できるハイブリッドなモデルを目指しています。
- 大場
- 国によってウェルビーイングに対する考え方も異なりそうですね。
- 大竹
- はい。
ウェルビーイングの概念には地域ごとに大きな違いがあります。
例えば、ヨーロッパでは働きやすさや自由度が重視され、アメリカでは肥満対策やフィットネスが重要視される傾向があります。
アフリカや東アジア圏では、コミュニティとの関係がウェルビーイングに直結することが多いですね。

(新藤内閣府特命担当、スタートアップ担当大臣と。在英日本大使館の推薦で招聘。2024年4月)
起業のきっかけは企業ボランティアに感じた違和感、そしてウェルビーイングへのピボット
- 大場
- なぜウェルビーイングをテーマに起業されたのですか?
- 大竹
- 実は、最初からウェルビーイングを軸に考えていたわけではありません。
私は20年以上、コンサルティング業界で働いてきました。
優秀な人がたくさんいる一方で、みな忙しすぎて仕事に追われ、視野を広げる余裕がないように感じていました。
そんな中、私は個人的に非営利法人の活動に時々参加していたのですが、たった数時間の支援でも「こんなに感謝されるのか」と驚くことが多かったんです。
それと同時に、自分自身も普段の仕事では得られない学びや成長を実感しました。
こうした経験をもっと広められないかと思い、社内で企業の社会貢献活動(CSR)を推進しようとしました。
しかし、予算の確保や承認手続きが煩雑で、なかなか前に進まなかったんです。
また、企業が社会奉仕活動を行う際には法務リスクというハードルがあるんですね。
例えば、ボランティア活動中に社員がケガをしたら、企業はどこまで責任を負うのか。
あるいは、善意で行ったアドバイスが適切でなかった場合、法的責任を問われる可能性がある。
こうしたリスクを避けるため、企業ボランティアは「公園のゴミ拾い」など、シンプルな活動に限定されがちなのです。
しかし、それでは本来の意味での社会貢献にはなりません。
本当に必要なのは、「プロボノ」の考え方だと思っています。
- 大場
- もう少し説明していただけますか?
- 大竹
- プロボノとは、専門的なスキルを活かして無償で社会貢献を行う活動のことです。
例えば、企業の財務やマーケティングの専門家がNPOの経営をサポートするようなケースがこれに当たります。
ただ、ここでも問題になるのが法務リスクです。
そのため、企業が「社会奉仕活動を正式な業務の一部として位置づける」ことが理想だと思うのです。
例えば、プロボノ活動に特別休暇を付与することで、「仕事の一環」として取り組めるようにする。
本格的に取り組むことで、より多くの人が参加しやすくなります。
この発想を深めていくうちに、時代が「ウェルビーイング」というテーマを運んできてくれました。
CSRのような「義務」に訴えるよりも、人々の「幸せ」に訴えかけた方が良いと思い、文脈をピボットしました。
やりたいこと自体はそんなに変わっていないのですが。
- 大場
- ウェルビーイングという考え方と、プロボノ活動にはどのようなつながりがあるのでしょうか?
- 大竹
- ウェルビーイングとは、「心身ともに健康で充実した状態」のことを指します。
近年、企業にとってもは従業員の心のウェルビーイングが重要なテーマになっています。
200年からコロナ禍でリモートワークが増え、デジタル化が進む一方で、「人と人とのリアルなつながり」が希薄になってしまったことで、今いろんな問題が起こっているんです。
まさに、「人と人が直接関わる経験」が非常に重要になっていて、プロボノ活動は、まさにこの「リアルなつながり」を生み出すよい機会になるんです。
- 大場
- なるほど。
つまり、プロボノ活動を通じてウェルビーイングの問題を解決できる可能性がある、ということですね。
- 大竹
- そうなんです。
私は、「キャリア成長」と「社会貢献」を掛け合わせることで、企業と従業員の双方にメリットをもたらせると考えています。
プロボノ活動でスキルを磨く その先にある社会的ウェルビーイングの向上
- 大場
- 今のお話とも関係しますが、どんな世界、社会、未来を目指して、今のビジネスを立ち上げ、推進していらっしゃるのでしょうか?
- 大竹
- 目指している世界観は、仕事を持つすべての人が、自分のスキルや経験を活かして社会課題に取り組むことが当たり前になること。
具体的には、働く時間の10%を社会に還元できるような仕組みを作りたいと考えています。
例えば、MIT-VFJのメンターの方々がされているように、個々の思いやパッションに基づいて社会奉仕を行う文化を広げていくことがとても大切なんです。
そもそも、自分の生活がギリギリの状態では、ボランティアをしようとはなかなか思えません。
だからこそ、一定の余裕を持つリーダー層が率先して積極的に時間を生み出し、社会還元をリードするべきだと思います。
社会的な成功を収めた人こそ、その影響力を活かして、より良い社会づくりに貢献できるはずです。
- 大場
- 確かに今立っているところが安定してないとか、何か心配事があると、余裕を持って他の世界に行こうというマインドがなかなか生まれてこないですよね。
- 大竹
- そうなんです。
だからこそ、「従業員が積極的にタイムドネーションを行っている会社」は、「ウェルビーイングが満たされている職場」と言えるのではないでしょうか。
こうした会社には意欲的な社員が多く、視野が広く、自己実現のレベルも高い。
結果として、やる気に満ちた職場環境が形成されています。
イギリスから帰国した翌月にVMP24に応募
- 大場
- なぜVMP24に応募されたのですか?
- 大竹
- 私はもともとイギリスで仲間と起業を計画していて、2021年頃から現地に法人を設立し、事業を進めていました。
しかし、移民問題が社会的な課題となっていた影響で、ビザの更新に長い時間がかかり、先を見通すのが難しくなってしまったんです。
加えて、家族の事情も重なり、昨年の夏に帰国を決めました。
VMP24のことを知ったのは、日本に戻ってから一か月ほど経った頃でした。
締切間際だったのですが、「日本での事業展開のために何か動かなければ」と考え、思い切って応募することにしました。
主な目的は、仲間を集めること、そして日本でウェルビーイング事業がどれくらい受け入れられるのかを試すことでした。
ただ、正直なところ、応募時点では準備不足でしたし、英語のスライドしか用意していませんでした。
でも、応募要項に「英語可」とあったので、とにかく出願しました。
- 大場
- メンタリングによって仲間を集めたいと思ってらっしゃるところは実現できたんですか。
- 大竹
- はい。
仲間集めは今後も続く永遠のテーマではありますが、応募したことで、深めることのできなかったご縁をいくつも発掘でき、明確な効果がありました。
実際にさまざまな方との出会いがあり、ビジョンを共有できる人とつながることができたのは大きな収穫でした。
- 大場
- メンタリングを受けて一番感動したこと、学んだことはなんですか?
- 大竹
- 一番のメリットは、多くの方からフィードバックをもらいながら、事業のアイデアを磨いていくプロセスを経験できたことですね。
粘土細工のように、考えを何度も練り直し、修正を繰り返していくダイナミズムを体感しました。
事業案というのは、自分の頭の中だけで作っていると、どんどんこだわりが強くなり、立派なビジネスプランができあがったように錯覚してしまうことがあります。
しかし、多くの場合、それは単なる勘違いなんですよね。
メンタリングを通じてさまざまな視点から意見をもらうことで、偏った考え方に気づくことができました。
特に、まだ事業アイデアが小さいうちに壁打ちを繰り返し、早い段階で軌道修正することが大切だと実感しました。
知財とビジネス系が充実しているMIT-VJFのVMPメンター
- 大場
- VMPのメンタープログラムについては、どのように感じましたか?
- 大竹
- いくつかありますが、まず各分野で高い能力を持つメンターが非常に多くいることが印象的でした。
そして、何よりも八王子での合宿メンタリングですね。
ここまで手厚くサポートしてくれるプログラムは、他にはなかなかないのではないでしょうか。
一泊というスケジュールだったからこそ、深夜過ぎまで壁打ちをしてもらうことができました。
また、メンターの皆さんがとにかく情熱的で、一つひとつの事業アイデアに対して本気で向き合ってくれることも驚きでした。
しかも、メンター同士がとても仲が良く、楽しそうに関わっているのが印象的で、それがまたこのプログラムの魅力を引き立てていたように思います。
私自身、最初は「MIT」という名前から、理系の研究員とのマッチングのようなイメージを持っていたのですが、意外にもビジネス系のメンターが充実しているという印象を受けました。
私のメンターは中野圭介さんと山田敦子さんだったのですが、お二人には相当ご迷惑をかけてしまったように感じています。
「ようやくやりたいことが分かってきた」とメンターから言われたのは、プログラムが半分を過ぎた頃でしたから(笑)。
さらに、磯谷さんと佐々さんによる知的財産(IP)の講座、そして投資銀行での実績を持つ秋山さんによるファイナンス講座も、オプション的な位置づけではありましたが、メインプログラムに匹敵するほど意義深い内容でした。
知財やファイナンスといった専門領域を深く学べる機会があるのも、このプログラムの大きな魅力の一つだと思います。
大きな実証 タスク賞受賞と竹山哲也社長の言葉
- 大場
- メンタリングで得たものは、今後の貴社・ビジネスの発展にとって、どのような変化をもたらすでしょうか?
- 大竹
- VMPに参加して、本当に良かったと実感していることが三つあります。
まず、一つ目は株式会社タスクの竹山哲也社長から「タスク賞」をいただけたことです。
これは私にとって、最高のバリデーションでした。
日本での事業展開を模索している中で、なかなか具体的な事業案が定まらず苦戦していた時期に、この賞を受賞できたことが本当に嬉しかったです。
竹山社長のように長年多くの事業を見てこられ、IPO支援までされている方から「これは実現可能性が高いと思う」と評価していただいたことは、大きな自信につながりました。
同時に、背筋が伸びる思いもしましたね。
受賞のポイントとして、「自分の置かれた立場で現状を変えていこうとする姿勢」を評価していただいたと伺い、さらに嬉しく思いました。
竹山社長から「あなたはCFOとして長年この業界にいて、システムも人も業界のことも知っている。
僕からしたら、こういう人がよく出てきてくれた!という感じなんですよ」と声をかけていただき、VMPを通じて最高の支援者の一人と出会えたことを、とてもありがたく思っています。
二つ目は、少人数ながらも強力な支援者が現れ、ものづくりのスタート地点に立てたことです。
現状の事業案が大勢に一気に響くものではないとしても、ビジョンや方向性が共通する人々が集まり、それぞれの問題意識を持ち寄って「すごいものが作れそうだ」と感じられる仲間が増えてきました。
同じ世界観を持つ人たちと一緒に何かを生み出せることに、今はワクワクしています。
これは、人が集まる場に積極的に出て発信を続けたことで得られた成果です。
まだ名前は伏せますが、本当に優秀な方々が参画してくださり、心強い限りです。
三つ目は、実証実験先を確保できたことです。
スタートアップでは「人とタイミングが命」と言われますが、タイミングはコントロールが難しいため、選べるとしたら「人」です。
人の集まりである組織や案件に対し、こちらからアプローチをする際、VMPのようなプログラムに取り上げていただいたことが大きな後押しになりました。
自己宣伝ではなく、客観的な実績を積み重ねることで、こちらの本気度や取り組みの価値が相手に伝わり、「話だけでも聞いてみようかな」という雰囲気を作ることができたんです。
竹山社長も、この点の重要性をよく理解されていたからこそ、まだ未知数の事業案であるにもかかわらず、背中を押してくださったのだと思います。
本当にありがたいことです。



ビジョンオリエンティッドな事業案で挑んだビジネスプランコンテスト
- 大場
- 私はビジネスプラン発表会で大竹さんのプレゼンテーションを聞いて、「ミッションで動ける」というのはすごいことだなと思いました。
私がこれをやりたいんだという熱い想いを伝えられるというのはすごいことです。
メンタリングしてくださる方々も、熱く質問されたりサポートされていましたね。
- 大竹
- ありがとうございます。
シニアな私とこのレベルの企画をメンタリング対象にしてくださったこと自体が、MIT-VFJのすごさですよね。
- 大場
- 日本の、今回のビジネスプランコンテストのようなものは、初めて応募されたんですか。
- 大竹
- そうなんですよ。
私は6月に日本に帰国して、7月末がVMP24の応募締め切りだったので、まさに帰国直後でした。
知り合いに勧められて、「ダメ元でやってみよう」と応募したんです。
- 大場
- それがタスク賞を取っちゃったって、すごい!!
- 大竹
- ですね、本当に嬉しかったです!
- 大場
- 講評のときも「あなたはしっかりと自分でやってこられたんですよ。
そこを誇りに思って」ということを言われましたよね。
- 大竹
- そうなんです。
「自分を信じたらできますよ」と言っていただけたことが、ものすごく嬉しかったです。
あの瞬間、それまでの苦労がすべて報われた気がしました。
こんなすごい方に「実現できる」と言っていただけたということは、やっぱり何かできるんじゃないかって。
ファイナリストの中で、私だけだったんですよ、プロダクトなし、ローンチなし、パワポのプレゼンテーションだけで、これやるんだとかって言っている人(笑)。
それでも評価していただけたことは、大きな自信につながりました。
- 大場
- 海外ではビジネスプランコンテストに応募されたことはありますか?イギリス時代やアメリカ時代などで。
- 大竹
- ビジネスプランコンテストは今回が初めてですが、これまで何度かピッチは経験してきました。
以前、オックスフォード大学のインキュベータやアクセラレータでVC向けにピッチを行い、その結果、メンバーとしての参加が認められたことがあります。
また、昨年はパロアルトでスタンフォードのVCにも接触しました。
ピッチの場では、一気にいろんな人からフィードバックをもらえるので、非常に有意義だと感じます。
ただし、ピッチコンテストで評価されることや投資家から資金調達できることと、最終的に顧客の支持を得てマーケットフィットを実現することは、また別の話だとも思っています。

(Oxford University Innovationにて
現地の仲間と。2024年2月。)
2025年は日本のプロボノを大きく盛り上げたい
- 大場
- これからの目標、目指す通過点・ゴールを教えてください。
- 大竹
- さきほど一部の超絶優秀な支援者との繋がりができたと申し上げましたが、一方で、大多数の賛同はまだ得られていないんですね。
ただ、むしろ多くの賛同を得られないこと自体に価値があるのではないかとも感じています。
ボランティアを通じてキャリアを高めるとか、プロボノを通じて会社で昇進するといった考え方は、まだ社会的に浸透していなくて、抵抗感を持つ人も少なくありません。
つまり、「社会貢献性とキャリア支援の両立」という概念は、今まさに新たに生み出されようとしているものなんです。
だからこそ、最初から受け入れられるはずがないし、失敗する可能性も高い。
でも、それでもやる価値があるものだ、と再定義しました。
そんなわけで2025年は、とにかくプロボノを盛り上げることをガンガンやっていこうと思っています。
プロボノやボランティアに本気で取り組むことで、人材育成につながり、企業価値も向上するというストーリーを実証し、事例を積み重ねていきたい。
そのために、まずは私たち自身の手で具体的なモデルを作り、プロボノ活動の価値を可視化していきます。
実際、プロボノやボランティアがもたらす人材育成の価値は、今なお過小評価されていると感じています。
しかし、この領域にはとてつもない潜在力があり、長期的な視点で見れば、日本の成長力を呼び起こす大きな可能性を秘めていると思っています。
現在、日本でプロボノ活動を推進している非営利法人の代表らと連携を進めているところですし、経済同友会もこうした取り組みを支援してくださっています。
今後の課題は、企業から人材をプロボノ活動へと引き出すための仕組みをどう構築するかです。
この仕組みが機能すれば、今求められている「営利と非営利の共創社会」の実現に向けて、大きなインパクトをもたらせるはずです。
豊富なプロボノ活動のリソースで様々なスキルアップニーズに対応
- 大場
- クライアント企業に提案していくプロボノ活動は、具体的にはどんなものがありますか?
- 大竹
- 最初は、ハードルを下げた手軽なプロボノ活動からスタートする予定です。
例えば、公立小学校で数時間、自分の仕事について紹介するといったものですね。
職業紹介の一環として、半日程度のボランティア形式であれば、企業の従業員も参加しやすいと思います。
そこからステップアップし、数ヶ月~1年以上の長期的な関わりへと発展させていくことも視野に入れています。
例えば、企業が従業員をNPO法人に出向させ、専門知識を活かしてプロジェクトに参画するなど、企業と非営利団体の連携を深める形です。
私、NPO法人との付き合いが150社ぐらいあるので、非営利法人側の案件は事欠かないです。
もう、いっぱいあります。
- 大場
- なるほど。
活動の幅が広いので、企業のニーズに合わせて柔軟に対応できるわけですね。
- 大竹
- はい。
でも課題もあります。
プロボノ活動を通じてどのようなスキルが得られるのか、キャリアゴールにどう結びつくのかを可視化するデータベースがまだ存在していません。
また、社会奉仕活動に対するフィードバックの仕組みも不十分だと感じています。
一方で、多くの日本企業が「リーダーシップが育たない」「社員のエンゲージメントを高めたい」という課題を抱えています。
プロボノ活動やボランティアが人材育成につながり、職場のウェルビーイングを向上させることをデータで証明できれば、企業もこの取り組みを真剣に考え始めるでしょう。
これらを実現化していくことで、「プロボノ活動が自己成長にどう影響するのか」が明確になれば、明確にキャリア形成と結びつけることができます。
これこそが、私たちのプロダクトのコアとなる部分です。
最終的には、AIエージェントやコンシェルジュのような形で、個々のユーザーに伴走しながら最適なプロボノ機会を提供できるような新しいシステムを構築するかもしれません。
研究資金の助成なども募りながら、より実用的なサービスへと進化させていきたいと考えています。
- 大場
- なるほど。
期間も内容も幅広いリソースがあるので、様々な企業や従業員のスキルアップのニーズに応えられるのですね。
資金調達についてはどのようにお考えですか?
- 大竹
- 社会起業としての立ち上げなので、通常のスタートアップとは少し異なる形を考えています。
具体的にはまだ詳細を話せませんが、現在、支援者を集める方法を計画中です。
VMPの応募を考えている方たちへ
- 大場
- VMPの応募を考えている方たちへ、ひと言メッセージをお願いします。
- 大竹
- アーリーステージで事業案に不安を抱えているファウンダーにとって、VMPは非常に貴重なプログラムです。
多様なメンターから意見をもらい、壁打ちを繰り返すことで、自分の考えがどんどん磨かれていきます。
最初は漠然としていた事業アイデアが、プログラムを通じて具体的な形になっていく感覚を味わえると思います。
あと、英語での応募が可能な点は海外スタートアップにとって大きなメリットだと思います。
ただし、プログラムが始まると、日本語での資料作成やプレゼンが求められる場面が増えるので、日本人メンバーがいた方がよいと思います。
- 大場
- 大竹さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

(VMP24最終発表会にて。2024年12月)

(VMP24最終発表会授賞式。2024年12月)
大竹 明子(おおたけ・あきこ) 氏 プロフィール
Herofinder Ltd の創始者CEO。
米国税務、M&A・組織再編、デュー・ディリジェンスの専門を持つ。四大会計事務所の税務事業CFOとして12年勤務後、アジア圏全域で日本人初のファイナンス・ダイレクターとして、将来指標や市場での需要を元に売上予測のデータ分析に携わり、グローバル事業経営全般に豊富な経験持つ。米国公認会計士。オックスフォード大学MBA(2021年)。シンガポール国立大学ブロックチェーンとデジタルアセットプログラム(2022年)終了。MIT AI /マシンラーニング・データ分析モデルプログラム(2024年)終了。日本から世界に向けてウェルビーイングを高める事業活動に取り組むと共に、これまで培ってきた経験と専門性を活かして長期的な価値創造を志す人や企業の役に立つ活動に従事する。
オックスフォード大学インキュベータ(OUI)、アクセラレータ(OX1)、在日イギリス商工会議所(BCCJ)会員。


(Oxford University Innovationにて。2024年4月。)
聞き手 大場さおり
NTTドコモに新卒入社後、コーポレートブランディング、コーボレートコミュニケーションの分野に長らく従事。
展示会等のイベント、広告制作、ドコモ未来フィールドの立ち上げ等対外発信戦略の立案と実行を担う。
2025年より兼業でMIT-VFJ広報を担当。
「未来を担う人々が日本、さらにグローバルへ羽ばたいていけるように」「日本のビジネスや伝統文化などの良さを海外・国内と広く広める」を自らのmissionととらえ、ファイナリストやMIT-VFJの情報発信を担う。
