INTERVIEW

佐々木 佑介 氏
(株式会社きゅうりトマトなすび 代表取締役)
同じ土地でもトマトとピーマンは違う。
品目の軸と土地の軸は重要で、ここをちゃんと
アルゴリズムに組み込んでいるところが我々の強み。
その強みを活かして農業人口を増やす!

MIT-VFJは24年間にわたり、ビジコンを超え、メンタリングに特化したプログラムVMPを毎年継続的に実施しています。本プログラムでは、 MIT-VFJ登録メンターが徹底したメンタリング・アバイスを行い、事業計画の見直しやブラッシュアップを行います。

今回は、VMP(ベンチャーメンタリングプログラム)24ファイナリストで長島賞、DOORCOM賞、未来のフツウをツクルで賞、TONOSU賞、正会員特別賞 の各賞を獲得された株式会社きゅうりトマトなすびの代表取締役、佐々木佑介さんにインタビューアーの大場と大野が迫ります。

※最も優れたビジネスプラン賞と最も優れたプレゼンテーション賞のダブル受賞

一次産業にAIとデジタル技術を 株式会社きゅうりトマトなすび

大場
株式会社きゅうりトマトなすびについて、会社のご紹介とビジネスモデルについて、読者にわかりやすいように教えてください。
佐々木
弊社は2023年7月に創業した会社で、基本的には一次産業の現場にAIやデジタル技術を実装しようということをやっています。
事業としては大きくは2つあり、1つは画像解析系のソリューション、もう1つはLLM系のソリューションをやっています。
いずれも共通して、農業現場のオペレーションを最適化するためのAIツールを現場に実装することで、それによって利益を得る自治体や企業からお金をいただくというのが1つ目のビジネスモデルです。
同時にその展開先のBtoBtoCのような形で、最終のエンドユーザーである農家さんからもお金をいただくようなビジネスモデルを今やっています。
大場
農業に携わろうと考えられたきっかけは?
佐々木
私は、元々地方創生などをやろうとしていました。
そんな中で三重県の南伊勢町とご縁をいただいたんですが、そこが本当に海と山を中心に一次産業が基幹となっている町でしてた。
でもそんな町でも、すごくうまくやっている農家さんや漁師さんは儲かっているんですが、結構もう人が減ってきてマズイ、一次産業基盤の町でもマズイみたいなところで課題感を持ちまして、どうにかしないといけないのはわかるけど何をしたらいいかわからない。
それで大学院に入ったのが農業に携わるようになったきっかけです。
大場
大学院の時に起業されて、今に至るんですね。
佐々木
大学院に入ってからはもう5年目なんですけど、まだ研究活動を続けつつ、その中でいろいろなキーワードを拾いそれを事業化するということをやっています。
1年半前に登記をし、並行してやっています。

この先2025年ぐらいから、農業従事者、漁業従事者もそうですけど、本当に減っていくタイミングだということは現場に行くとメチャクチャ感じるんです。
これを食い止めるためには、新規就農者を増やすしかない、そうすると新規就農者がすぐに稼げて定着する仕組みを作る必要があると思っています。
そういう目線で、新規就農者の方にしっかり使っていただけるような、且つ、安定性が高く、現場で使えるようなものを作っていこうと思っています。
大場
何か新しい角度で農業に携わらないと、第一次産業に従事する人が増えていかないと思うような体験があってこういう発想になったのですか?
佐々木
新規就農や、農地を入手して実際に農業をやろうと思って始めると結構厳しいことがわかるんですよね。
収益を増やそうとすると、面積を増やすとか何パターンかしかなくて、簡単に初手からできるかというと結構難しいんです。
そういったことを理解しているので、そこに刺さるような技術を作っているところです。
大場
ご自分でも農業を始めたり、体験をしっかりされながら進めてらっしゃいますよね。
佐々木
はい、結構農地に行っています。
今日もインタビューが済んだら高知に行くんです。
森に入ってその後農地へ行って…というのをやるために、今、浜松町のカフェにいるんですよ。
現地へ行くのは大事だと思っていて。
スタートアップ全体を見ても、それこそM&Aを前提にした起業みたいなことが、最近ちょっと流行ってると思うんですけど。
これってソリューション提供する事業者が本当に自分ごとで全体のオペレーションを考えるということだと理解しています。
オペレーションの1個のソリューションを作るのではなく、全体のオペレーションテクノロジーを変えていくようなことというのが多分トレンドでもあるし、やっていくべきことだと思っているので。
そういう意味でも、現場の体験というのは大事にしつつ、自分たちも経営していかないといけないなと思っています。
大場
すごく共感します。

VMPの強力なメンター陣の伴走で進むビジネスモデル

大場
なぜVMP24に応募されたのですか?
また、他にもアクセラレータープログラムなどに参加されていたら、それと比較しての観点も教えてください。
佐々木
元々は一応大学生なのでキャンパスベンチャーグランプリというものに出まして、そこで冬野さん(MIT-VFJ理事)が審査員をされていて、賞をいただきました。
冬野さんと月1でZoomでお話をするということをやっていたんですが、その中でベンチャーメンタリングプログラムがあるとご紹介いただき、出してみようよと言われたのがきっかけです。

私自身はこういうアクセラ系のものは初めて参加するので、メンターの方がずっと伴走してくださるのはありがたくて、週に1日の定例会があったので、報告に合わせるために進捗を生まないといけないし、毎回的確にフィードバックをいただけたので、そこはとてもありがたかったです。
こういったことが他のビジネスプランコンテストとは違って、この、MIT-VFJがやっているプログラムの良さだなとすごく感じました。
大場
メンターはどなたでしたっけ。
佐々木
川北さんと谷口さんです。
大場
なんと強力な2人ですね。
佐々木
そうなんです。役割分担をされて、なんかいい感じに面倒を見ていただいきました。
大場
メンタリングを受けて衝撃を受けたことや、今活かしていることはありますか?
佐々木
僕らは元々起業する前にちょっとスタートアップみたいなところでAIコンサル業はしてましたが、toBでお金を取るか、toCでお金を取るかみたいなことしか考えられてなかったんです。
toB toCみたいな概念は、川北さんが今やっていらっしゃる仕事上でも結構やっていらっしゃっていて、こういう風に考えているということを指導していただいたのがまず一番勉強になったなと思っています。
今も営業の方針というところにモロに効いてきているので、そういう意味だとかなり効果があったなと思っています。
大野
普通、BtoBとBtoCとやり方が全く違うと思うんですね。
だから一緒くたにしてしまうと、どちらも駄目になってしまって、最初はBtoBでその後BtoCにいくとかそのスケジュール感を持ってやらないといけないと思うんですけれども、その辺はメンターの人たちは「そのままやれ」と言っていたのですか?
佐々木
toBでどこまでいけるか、まず掘れと言っていただいた記憶があります。
私もアポイント先はあったので、そこを話す中で、toBである温度感とか、そこでプラットフォームとして提供する温度感とか、あとはデジタルサービスなのでオンプレでやるのかクラウドでやるのかの温度感とか、見てくるべきものの項目を教えていただいていました。
最初はtoB目線で進めるんだ、toB & toBtoCで進めるんだというフィードバックをいただいたと認識しています。
大野
実際にはスケジュールをちゃんと立てて、いつまでにこれをやって、その次に行くみたいな形で進めていらっしゃるわけですね。
佐々木
基本的にはそうです。
大野
安心しました。
佐々木
メンタリング中は「来週までに聞いてこい」みたいな雰囲気でした(笑)
大場
収益性を含めてビジネスとしての色が濃いメンタリングだったのですよね、もちろん。
佐々木
はい、もちろんです。そこも結構言われまして「佐々木くんは『安くして』って言われたら、言いくるめられそうだから、強気で行け」とか、そういうことを言っていただきました。
価格感も「いやこれぐらいが妥当じゃないか」と言って、その後積み上げて何年後にいくらになるみたいなところも含めて、これからのビジネス規模を目指すのが妥当なんじゃないかなという数字感も議論させていただいたという感じです。
大場
将来性を見据えたときに何が必要かっていう姿勢とか、ビジネス性も含めていろいろな視点からアドバイスや伴走があったということですね。
佐々木
おっしゃる通りです。大変ありがたかったです。
大場
すごく成長しそうですね。
そこの観点でいくと、他のコンテストと大きな差がありますか?
佐々木
はい、そうだと思います。
他にも同じようなプログラムあるかのは知らないのですが、私が受けた中ですと、メンタリングをこれぐらいの規模でやっていただいて、テーマが別に決まっていないので、幅広にフィードバックをいただけるのは、すごく嬉しいと思いました。
例えば今みたいなフェーズだとシード向けのVCがやっているアクセラなどあると思うんですが、それはこの先1年以内に資金調達するのがゴールとか、一定のゴールが定められているものもあります。
VMPでは、いったん事業をどう良くするか、それぞれのフィールドに合わせて…というところが、私としては大変ありがたかったです。
大野
メンタリングを受けたのはやっぱり大きいですね。非常に優秀なメンター陣だから。
キャンパスベンチャーグランプリに参加されたのもよかったですね。
佐々木
そうですね、そこのご縁でここまで来たので。
すごくありがたかったなと思っています。

メンタリング後のビジネス展開

大場
コンテストでたくさん受賞されたと思うんですが、今、それを活かしていますか?
佐々木
あまり活かせてないと思っていて。
これはちょっと課題だと思ってるんですが、正確に言うと川北さんも私も1月まで忙しくて、お互い全然連絡を取り合えず、気付けば2月になっちゃったみたいな感じだったりはしています。※
※インタビューは2025年2月

優秀なメンターの方は忙しいという問題をどうにかする必要があるのかなと思いますが、連絡は取りたいと思っていて。
この前、冬野さんにはお時間をいただいてお話をして、やはりもうちょっとここは考えた方がいいみたいなフィードバックもいただけて、そういう意味でもご縁としては続いています。
大場
メンタリングを受けて、方向性はどうなりましたか?
また当初から変わった部分はありますか?つまり、ビフォー&アフターを教えてください。
佐々木
当初から変わったところは結構あります。
技術的なところも大きく方針が変わり、どこに一緒に持っていくかというところの方針も結構変わったと思っています。
具体的には、我々元々は大規模言語モデル、LLMと呼ばれるもの一筋でやろうとしていたのですが、「数字の解釈ができないで困っている人がいっぱいいるよ」と、自治体や事業者からお話をいただいて、何かそういう方針を一緒に立てられないかみたいな話に切り替えたりとか。
そういうことをアドバイスいただいたと思っていて、実際来週もまた愛知へ行くんですが、そういう事業者目線で実証を組んでいこうというようなことを今やっている感じかなと。
そういう意味ではすごく反映されているというか、影響を受けているかなと思います。
大場
最終的なゴール、目指すところはなんでしょうか。
佐々木
プレゼンでは食料自給率100%という言葉を言っていたんですが、これはちょっとキャッチーに意思をお伝えしているものです。日本の食糧生産というところにインパクトを与えるのはもちろんで、世界的なインパクトのファクターとしてはそういった数値化を目指していくというところは変わらないと思ってます。

一方で会社としてはどうしていくのかも考えないといけないという話はもちろんしていて、これは14年後とかに、上場を目指すという、ちょっとロングスケールなんですが、どうしても時間がかかるビジネスだというのもあって。
そういうスケジュール感で普通にやっていこうと話しているところです。
大野
結構長いスパンで考えてらっしゃるかもしれないですが、ビジネスとなると、皆さんものすごくスピード感を持って起業し、3年後に上場とか、そういうことを考えている人が結構いらっしゃいますよね。
やはり農業となると、ロングスパンでしょうか?
佐々木
おっしゃる通りで、もうちょっと具体的に言いますと、一次産業の現場にフォーカスをしているので成果が見えるのに時間がかかるというところと、我々の軸として生産事業もちゃんとやっていきたいと思っているので時間がかかるみたいな話とかやはりあって。
そういうのを大局的に見ると「一定の安定生産という売上目処が立っていて、且つソリューションが立っている状態を目指そう、2041年にこれくらいの規模じゃないといけない」みたいなことを逆算しているようなイメージなので。
スケジュールとしてはゆっくりで、目の前ではすごく急いでやっているんですが、全体では時間がかかっているような感じになっているというイメージです。
大場
今は農業にフォーカスされていますが、今後は漁業、林業に展開したり、または海外に持っていくなどは考えていますか?
佐々木
水産も実際にやっていまして、養殖DXの事業者さんと連携をして、そこのAI部分を開発するという形で入らせていただいています。
昨年から仕込んでいたことで、沖縄での水産DX事業を養殖DX事業者の社長さんとうちのAIエンジニアとで合わせて展開するようなチャレンジをしています。

林業に関しても、実はこの後林業の視察にも行く予定です。
問い合わせが最近結構多いんです。
いろいろな自治体などから一次産産業周りの課題について問い合わせが来るようになり、ありがたいことになってきています。
農業に絞らず、農林水産業全てにおいて対応できるソリューションを作っていきたいと思っています。
大場
海外はどうですか。
佐々木
海外も、ゆくゆくは行きたいなと思っています。
それこそ水産系だと、今月末フィリピンの水産課の人とお話しをする予定で、フィリピンの副大臣か誰かが出てくるようで、お話しをすることが決まっています。
結構東南アジアは農業においても水産業においても、今後フォーカスしていくべき領域だと我々は捉えています。

林産と呼ばれるようなキノコ類の生産においては、北米とかインドみたいなところに市場を狙っていくという話ももちろんしていて、実は大企業さんと今お話しはしています。
現地生産みたいなところとかブランドを作っていくようなことができないかとお話ししています。

評価され広がるからこその課題とは

大野
引く手あまたな感じであちこちからいろいろな曳き合いやら何やらがあると思うんですけども。
そういう何でもできるぞというような気になって、二兎追う者は一兎をも得ずみたいなことになってしまいがちな人が多いんですね。

過去のインタビューで、株式会社識学の安藤社長がお話しされていたのですが、とにかく何か1つにギュッと絞ってまず成功をおさめるのが肝要、と。
さきほどのBtoBをまずやっていくっていうのも一緒なんですが、何か1つの分野で成功を収めて、そこから次にやっていかないと、みんな駄目になっちゃうよ、みたいな心配を感じます。
お話を聞いていると、ちょっと不安になってしまうところがあるんですけども、そういうところは大丈夫ですか?
今、足元1年でこれを固めなきゃいけない、というようなことがあったら教えてください。
佐々木
それをまさに我々もどうしようかと言っているところで、本当におっしゃる通りでして。
とはいっても、まずはエンジニアの人員を張っているというところだと今は農業にフォーカスをしています。
その中でもLLMのモデルと画像を繋ぐところをやっているのですが、そこに今は今一応フォーカスはしています。

本当におっしゃる通りで、何かこれをやるとあれもやりたいってなっちゃうというのは結構悩みでして。
なので、水産の方とか、さきほどのキノコの方とかも、うちではやりきれないなというか。
うちはやはりAIを作るところが強みの会社なので、その方面の専門性と思いのある方とパートナーシップを結んでやっていくという戦い方が正しいかなとも思っていて。
自社の開発、そしてエンジニアが張るところはフォーカスをして、そうじゃないところはパートナーシップの中で必要に応じてやるような形を、今は想定しているところです。
大野
せっかくいろいろ引き合いが来るのを手放しちゃうのは勿体ない気がしますからね。
何とか魅力を拡散しつつ受けていくというところでしょうか。
佐々木
Keep in touchをしつつ、離し切らない感じで、というのを目標に。
多分私がその役割をやるということだと理解しているので、頑張らないとなと思っています。
大野
今、何人でやっていらっしゃるんでしたっけ?
佐々木
エンジニアは今採用も強化していて、フルで入るのは4人なんですが、インターン生や業務委託が10人いて、あともう5人ぐらい採用しようかなという感じになってきています。
大場
具体的に今、実際に取り組んでいる課題と、いつごろに何を達成していかなきゃいけないというあたりを、差し支えなければ教えてください。
佐々木
農業特化型のLLM事業に関しては、実は1月末に農家さん向けの機能を、農林中央金庫さんと連携をして、サービスを発表しリリースも出しました。
これも一応反響はあって、いろいろと実際にユーザーさんに届くことが始まってるんですけど、それに応じて課題も見えてきました。例えば、BtoBtoCの真ん中のBの方もそうですし、最後のCの方もそうですけど、ユーザーインターフェースのところが一番課題だと言われています。

今ここの改善にフォーカスをしていて、来年度の5〜6月ゴールデンウィークぐらいをめどに、LINEとの連携であったり、それぞれのユーザー用のインターフェースを開発したりというのをやっています。
同時にその時期ぐらいから、何らかの実証が走れないかと営業調整もしていて、そのあたりからLINEの機能を搭載した形で実証を始めることを、目の前の目標にしています。
大場
実際に収益は上がっていますか。
佐々木
かなり小さいんですけど、少しずつ出始めている感じです。
どちらかというと保守メンテ費用とかでいただいている分の方が圧倒的に大きいので、サービスとしてのインパクトとしては全然まだまだなんですけど。
ゼロではないという感じです。
大野
膨らませていかないといけませんね。
佐々木
そうなんです。

強みは、強化し続けるデータベースと特化したアルゴリズム

大場
こういう生成AIは結構いろいろな企業が独自で開発されたりしてると思うんですけど、他社にない特徴とは?
どんなところが農業に適しているんですか?勉強不足ですみません。
佐々木
我々は実は基盤モデル自体は作っていないんですが、基盤モデル自体は別にGPTでもクラウドでも何でもよくて、我々の得意としているのはデータベースを持っているところと、それらを処理するアルゴリズムが強いというところになっています。
データベースを持っているというのは、日本の農業に特化した形で、日本の農業の研究施設等がオープンに出している文献というのを集約しているというところが1点目。

2点目の処理のところに関しては、どこの場所でという情報と、どんな作物で、というこの2つの情報が農業作業においては非常に重要です。
簡単に言うと、東北でピーマンを作る時に、九州のピーマンの育て方を聞いても、あまり参考にならなかったりとか。
もっと言うと、同じ九州でも、トマトの育て方をピーマン農家が見ても参考にならなかったりとか。
この品目という軸と、地理的な土地という軸は重要だと思っていて、ここをちゃんとアルゴリズムに組み込んでいるところが我々の強みだと思っています。
大場
どのぐらい膨大なデータを取り込んで、そういうデータとして吐き出しているのですか?
佐々木
基本的に47都道府県全てに対応していて、品目としても、農林中央金庫さんのWEBサイト『AgriweB』のトマトとかネギとかなど12品目ぐらいに特化し、集中的にデータを集めている品目がある状態です。
そのほかにも品種のデータベースや農薬データベースと連携させたりとか、そういったことをやっています。
大場
ビジネスプラン発表会のプレゼンで、農業の従事人口を増やしていかないといけないとおっしゃっていたと思うんですが、例えば初めて農業やりますみたいな人が、その仕組みを使って、例えばキュウリとかトマトとかのデータベースを活用すれば、結構農業がうまくいくみたいな…何かそういうビジネスモデルのイメージですか?
佐々木
その通りです。
そういうことをこれまでは自治体やJAさんの指導員と呼ばれるベテランの農家さんなどが、その地域を回り教えるということをやってきていました。
この形は否定する気は全くないのですが、ただ教える人がいなくなってきているし、気候も変わってきているというところに、判断できるものとしてAIを活用していただくっていうところを今は目指しています。
相談相手がいつもいるような。
基本的には失敗しづらくなるというようなことを思っているところです。
大場
BtoBのサービスは具体的にはどんなものですか?
佐々木
例えばユースケースとしては、今言ったような営農指導員さんと呼ばれる人が、指導に回るところを補助するサービスです。
その人たちはどこで収益を上げているかというと、コンサルティングで収益を上げているわけではなくて、資材を売ったり肥料を売ったり農薬を売ったりというところで、ある種の商社的な機能としてお金を儲けているようなことになっています。
なので、基本的にはその人たちが物を売りやすいように課題を抽出するところであったりとか、今どんな病気が流行っているみたいなことをリアルタイムに把握できることであったりとか、あとはそもそも相談する人の人数を減らして、巡回する工数を削減するであったりとか。
そういった営農指導員さんという存在のDXをしていかないといけないというところに我々は価値があると思っていて、提供していければというふうに思っています。
大場
なるほど、ありがとうございます。

2025年のVMP応募を考える方たちへ

大場
VMPは今年も開催されますが、応募を考えている方たちへ、アドバイスやメッセージをお願いします。
佐々木
まず、とりあえず出したらいいと思っています。
フェーズの縛りが強くなくて、それぞれに合ったメンタリングで、しかもそのサービスに合った形でメンターの配慮をしてくださるっていうところは、非常に魅力的で心強いなと思います。
なので、何かぼやっとしているけど、フェーズもみんなそれぞれだけども、そこはそこで考えずに、とりあえず出せるというところがやはり一番いいところだと思っています。

合宿などがある中で、いろいろな方とお話しできるところもいいなと思っています。
我々メンティー5人に対して、メンターの方がたくさんいてくださる。
常に話していられる相手がたくさんいて、これはすごいなと思いました。
情報を浴び続けられる!
大場
1週間に1回、次の課題が与えられて、すごく追い立てられるように考えなきゃいけないというのもとても大変そうですね。
実際のビジネスを回しながらやっているわけですし。
佐々木
そうですね。
でもなんか、これちょっと失礼な意味ではないのですが、川北さんは65歳で、昨年起業したそうなので、そのパワーに圧倒されたところもあって。
65歳の方が頑張っていて、20代の僕が頑張らない理由はないなと思いました。
日々走るモチベーションになりました。
大野
川北さんは怪物ですよ。
佐々木
体力もすごいなと思うし、あの体力も含め全て多分熱量なんだろうなとも思います。
大野
川北さんはサイボーグなんです。
私は、『サイボーグ潤』って呼んでるんです(笑)
本当に死ぬ思いを何度もやって、体の中にたくさん金属が入っていて…
それで頑張っている。
佐々木
では私は『サイボーグ2世』ということで頑張ります。
2025年度実証して、2025年に結構成果出る感じだなという設計をして、実証の最終確認みたいな2025年にします。
25年度末ぐらいに、結構いろいろとリリースも出しながら、いよいよ展開という感じになっていくかなと思っています。
大場
収益も上げられていく感じですね。
佐々木
うまく走っていければ、アクセル踏むタイミングはあるのかなという気も最近ちょっとずつし始めていて。
大野
『未来のフツウをツクル人』だと思って賞を差し上げたので※、ぜひ未来の普通を作ってください。
※佐々木さんはVMP24で『未来のフツウをツクルで賞』も受賞されました。
佐々木
頑張ります、任せてください!

今乗り越えるべきところは「スピード」、そしてその先へ

大野
今、最も乗り越えなくちゃいけない課題って何ですか?
品目の軸と土地の軸は重要。ここをちゃんとアルゴリズムに組み込んでいるところが我々の強み
佐々木
今はどちらかというと開発スピードだと思っていまして。
改善したい機能がたくさんあるうち、お客さんからも実装ベースでいろいろとフィードバックをいただいていて、「確かに」と思うことも多くありますが、開発が間に合っていない。
このスピードを上げていくところが近々の課題だとは思っています。
今の目の前の課題はそこです。

ただ人を入れると、それはそれで管理コストが増えるというのを去年すごく感じたので、長く一緒に働いてくれる人をうまく巻き込んでいくというところが、ここ直近3ヶ月ぐらいの課題かなと思っているところです。
大野
例えば、開発がうまくいけば、事業はうまくいきますか。
佐々木
はい、うまくいくと確信はしていて、良いサービスであるのは間違いないなと思っていますし、インパクトもあると思っています。
大野
技術系の人たちはたいてい、自分の技術の研究が素晴らしいので、それが達成されれば、みんな人がお金を落としてくれると思っているんですけども、実はそこは大間違いでね。いいものはみんな真似しますから、競合他社が現れるわけですよ。
大手も多いし、盗まれちゃったりもするし。
そこで会社の経営をうまくやっていかないと、それで成功しないと、せっかくやってきたのに…となっちゃうみたいなところがあって。
スタートアップベンチャーは仕方ないですが、本来社長というのは、実際に手を下す人じゃないのです。
人を育てる、仕込むのがすごく大きな仕事だろうなと思っています。
佐々木さんは魅力的な人ですから、きっと仲間が増えて、すごくたくさんの夢を実現させるお手伝いを、みんなでやってくださるだろうなと思っています。
佐々木
本当に今おっしゃったような知財戦略とかそういう話も含めて、そこの設計はどんどん考えていかないとなと思います。
また何かこれまでのフェーズからも多分どんどん変わっていくだろうと思っているので、そこは何かある種の楽しみでもありますし、頑張らないといけないなと気が引き締まるところだと思ってます。
大場
応援して楽しみにしております。
今日はお忙しいところお時間いただいてありがとうございました。

佐々木 佑介(ささき・ゆうすけ) 氏 プロフィール

株式会社きゅうりトマトなすび
代表取締役CEO

東京大学大学院卒業後、東大発AIスタートアップにて機械学習・数理最適化などによる産業DXのプロジェクトを複数リード。
2023年に創業後は一次産業に特化したAIスタートアップとして農林水産業現場で役立つソリューション・技術の開発をおこなう。
現在は地方自治体やJAグループ、大規模生産法人と連携し、画像解析技術や生成AI技術の農林水産現場適用の推進。
IPA未踏アドバンスト採択などデジタルの専門家が、農林水産現場に通い続けてソリューション開発から実装までを一貫して実践している。

聞き手 大場さおり

NTTドコモに新卒入社後、コーポレートブランディング、コーボレートコミュニケーションの分野に長らく従事。
展示会等のイベント、広告制作、ドコモ未来フィールドの立ち上げ等対外発信戦略の立案と実行を担う。
2025年より兼業でMIT-VFJ広報を担当。
「未来を担う人々が日本、さらにグローバルへ羽ばたいていけるように」「日本のビジネスや伝統文化などの良さを海外・国内と広く広める」を自らのmissionととらえ、ファイナリストやMIT-VFJの情報発信を担う。

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